なぜ女性の自殺が増えたのか
令和2年の自殺者総数は2万907人で、男女別の内訳は男性1万3914人、女性6993人で、例年と変わらず男性が女性を大きく上回る。しかし増減率で見ると、男性の自殺はむしろ減り、反対に女性の自殺は全ての世代で増加となった。
なぜ女性の自殺が増えたのかという問いに対して「これです」という明確な答えはない。そもそも、自殺はその要因は4つ以上あるとされており、いくつかの生きづらさが重なって起きる。コロナ禍での女性の自殺には「原因不明」も多い。そのため、現在わかっているデータと、寄せられている相談内容から、女性の自殺の要因を考えてみたい。
自殺の数は男性が多いが、実は例年、うつ病の診断は女性のほうが多い。これは、女性は女性ホルモンが急激に変化しやすいためだ。思春期・産前産後・更年期などに情緒不安定になったり抑うつになったりする。そのためうつ病が多いことと、女性のほうが「眠れない」「気分が沈む」と気になったらすぐに受診行動をとることによるものも大きい。
ストレスの要因も、男性は仕事など家の外にあるが、女性は子育て・育児・DVなど家の中にあることが多い。自粛で家族といる時間が増え、コロナ前から緊張状態が高かった家庭は、さらにその状態は高まっている。
2020年の犯罪情勢統計によれば、児童虐待の疑いがあるとして児童相談所や警察に通報された18歳未満の子どもは前年比8.9%増しで10万6960人となっている。内訳は心理的虐待が7割を超えている。DVの相談・通報も過去最多の8万2641件となった。コロナ禍で虐待・DVは悪化しており、ヤングケアラーの問題も家庭内で深刻化しているのである。
ストレス要因は上がり、ストレス発散要因は下がった
新型コロナ感染に関して、男性よりも女性のほうが、不安が強い傾向もある。実際、「コロナが怖くて学校に行けない」という子どもの、ほとんどのケースでは、母親が過剰にコロナ対策をしていた。がんの意識調査などでも、相談をいくつか受けたが女性のほうが男性より病気に対して「怖い」と感じる傾向が強いことがわかっており、女性は病気に対して男性より不安を強く抱く傾向があるのである。
では通常、女性が男性より自殺が低く抑えられてきているのはなぜか。それは、女性は男性より他者と会話し、会話によってストレスが軽減されていたと考えられてきた。しかし、コロナ拡散防止のため食事・カラオケ・旅行などすべて自粛が求められた。緊急事態宣言が解けて、日常が再開しても食事をするのは「黙食」、温泉に行っても「黙浴」でおしゃべりができない。ストレス要因は上がり、ストレス発散要因が下がり、結果として、メンタルヘルスのリスクが上昇している状態にあるのだ。