「普通の家庭のママ」が自殺をする現実

とりわけ、この半年、私が気にしていることがある。子育て世代のママの自殺の相談が増えていることだ。それは、乳幼児や小学生くらいの子どものいるママ世代だ。厚生労働省の自殺対策白書では、同居や仕事の有無はわかるが、亡くなった人が子育てをしている人なのか、仕事しながら子育てをしていたのかなどの亡くなった人の属性、物語が全く見えてこない。

私のところにあった相談者の多くは、経済的に安定しており、周りから何も心配されていない「普通の家庭のママ」のケースであった。「普通のママ」であるがゆえに、何が原因で自殺したのかもなかなか見えてこない。

明るい部屋で、母親の人差し指を握る赤ん坊
写真=iStock.com/west
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それは、「誰から見ても成功していて、将来も有望で、子育ても両立できている」著名人の自殺を彷彿させるものであった。つまり、「若いママの自殺はシングルマザーの経済問題でしょ?」などというステレオタイプな解釈は全く通用しないどころか、自殺対策の弊害になると痛感させられた。

私に相談があるケースについて個人が特定されない形で伝えると、自死で親を亡くした子どものケアについての相談が多い。これまではお父さんが亡くなるケースの相談が多かったのが、この半年は、お母さんが亡くなったケースの相談が増えている。

子どものグリーフケア(死別体験後の支援)も必要だが、小さなお子さんを遺しているケースが多く、生活そのものをどうやって再構築していけばいいのか、途方にくれているお父さんも少なくない。お母さんがいないとお父さんに家事の負担がかかる。そのため、お父さんに経済的な影響も出てきて、さらに生きづらさを抱えていくことになっている。

また、著名人の自殺の報道の後に「あんなに小さな子どもさんがいたのになんで」という声もよく聞かれた。これらの言葉は誹謗ひぼう中傷ではなく、一般的に心配して出た言葉ではあるが、言われた側の子どもは「親の死を止められなかった存在」となってしまう。

子どもや遺された家族に新たな生きづらさを作らないためにも、「子どもが親の自殺の抑制になるはず、ならないのがおかしい」という固定観念を私たちは捨てて、若い女性の自殺対策をしなければならないのだと思う。

コロナ禍での孤育てのつらさ

女性の自殺が増えた背景に、コロナ禍で子育てが「孤育て」になっていることがあるのではないか、といろんな場面で感じる。

このコロナの時期の妊娠自体も、感染を恐れて不安であろう。そしていざ、出産となったら、実家から産前産後に手伝ってもらえない、里帰り分娩ができないなどの問題がまず生じ、不安なまま出産を迎えることとなる。

出産後も、子育てサークルが自粛縮小され、ママ同士のリアルなつながりもなくなっている。また、保育園や学校が休校になると、ママ業はさらに激務化する。そして自粛で外に連れてもいけないとなると、家で見るしかない。夫はリモート勤務で、「リモート会議中は子どもを黙らせろ」というので、会議中2時間、近所を子どもたちと徘徊はいかいして過ごしたという母親もいた。私のもとにはいろんな実態の相談が寄せられる。一人ひとりの事情を聴くと、本当にいろんな面でコロナ禍が子育てに影響しており、妻は夫への不満も募らせている。