彭さんの問題は「ビジネスよりも重要性で上回る」
中国のテニス選手で、女子ダブルスの元世界ランキング1位の彭帥さん(35)の安否が依然としてはっきりしない中、女子テニス協会(WTA)は12月1日、中国および香港におけるトーナメント実施を全面的に停止すると明らかにした。WTAのスティーヴ・サイモン最高経営責任者(CEO)は、彭さんを取り巻く問題は「ビジネスよりも重要性で上回る」と中国のやり口を真っ向から否定している。
国際テニス連盟(ITF)も、2022年に中国で試合を開催しない意向であることをロイター通信が9日に報じた。一方で、同じテニス界でも男子テニス協会(ATP)は「問題の進展を見守っていきたい」と、静観の構えだ。
彭帥さんは11月初旬、中国の最高指導部に名を連ねていた張高麗前副首相(75)から「性的関係を強要された」と中国のSNSの微博(ウェイボ)で告発。その後、WTAをはじめとするさまざまな機関が自由な直接対話を求めているが、1カ月以上たっても消息不明の状況が続いている。
WTAはトーナメント運営において、チャイナマネーに極端に依存しているとされる。しかし、サイモンCEOは今回、「中国の指導者層はこの非常に深刻な問題に対し、信頼できる方法で対処していない」「権力者が女性の声を抑え込み、性的暴行の訴えをうやむやにできるなら、WTA創設の理念である女性の平等という基本理念が大きく後退してしまう」と明確に主張。こうした状況がWTAやその選手らに起こっていることを看過できない、としている。
大会を呼び込みたい中国側の「異常な大盤振る舞い」
WTAが中国へ積極的に進出したのは、2008年北京五輪開催の直前だった。当時WTAは、北京にアジア太平洋地域本部を開設している。その後、2011年全仏オープンの女子シングルスで李娜選手が優勝、中国でのテニスへの関心が一気に高まった。ちなみに今年の全米オープンで優勝した英国籍を持つエマ・ラドゥカヌ選手(18)が、自身の母親が中国系であることから「私の幼い時からの目標は李娜選手」と言ってはばからない。
WTAがいわば中国に“進出”した2008年、現地で開催されたWTAトーナメントはわずか2回だった。しかし、コロナ禍直前の2019年には9大会にまで増えている。
しかも2019年の中国におけるWTAトーナメントへ提供された賞金額は合計3040万ドル(35億円)に達し、異常というほどの大盤振る舞いだったという。特に、深圳市で開催された年間最終戦「WTAファイナルズ」では1400万ドルを提供。これは前年(18年)水準の2倍、しかも男子テニスの最終戦である「2019年ATPファイナルズ」より500万ドルも多かったという。