「犠牲が多い人ほど評価に値する人」という風土

日本はステートを崩しても我慢できる人が多いからか、「ステートそっちのけ」という前提で作られた社会なのかもしれません。リモートワークが当たり前になる前の東京の毎朝の満員電車は、その最たるものです。

ビジネスでも、従業員の高いストレス耐性を前提としたビジネスモデルや組織作りになっていることが少なくありません。私がおうかがいしたある企業では、最近まで「売れるまでオフィスに帰ってくるな」という怒声が飛んでいたそうです。こうした労働環境の過酷な企業が少なからず存在します。

職場でも、「犠牲が多い人ほど、職場や組織に貢献しており、評価に値する人」という風土や考え方が根強くあるように思います。

たとえば、忙しそうな人ほど一生懸命働いている、ムスッとして笑わない人ほど真剣に仕事をしている、長時間労働をしている人ほどたくさんの仕事をしている、家族を犠牲にして土日も働いている人のほうが仕事によりコミットしている、スケジュールがびっちり詰まっている人ほど優秀……これらは、日本人独特の見方のようです。

残業しているビジネスマン
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「なぜ日本人は遅くまで仕事をするのか」という素朴な疑問

私は、一般的な日本人駐在員よりも、ドイツ・ベルギーの現地組織の中にどっぷり入り込んでいました。そのため、彼らから本音の質問をよく受けていました。

「Tama、なんでいつも日本人は不機嫌なんだ? 笑わないんだ?」
「Tama、なんで日本人は忙しそうに、いつもフロアを走っているんだ?」
「Tama、日本人は遅くまで仕事して、家族はなんとも言わないのか?」

彼らにとっては、そんな日本人の行動パターンが理解できないようでした。私が、「その時々の良いステートを彼らが何より大事にしていること」を理解していなかったように。

私はドイツ・ベルギーのすべてが素晴らしいとはまったく思っていません。むしろ、比較すればするほど、日本には本当に素晴らしいところがたくさんあります。ただ、「今この瞬間にステートが良いことにこだわる生き方」は、日本人がもっと参考にすべきだと強く思っています。