「親ガチャ」と呼ばれる格差を解消するにはどうすればいいのか。早期幼児教育による格差縮小を唱える米シカゴ大経済学部特別功労教授のジョン・リスト氏は「貧困家庭は子供への教育の価値を理解していない。2010年に始めた大規模な実証実験では、親を教育するカリキュラムが大きな効果を上げている」という。NY在住ジャーナリストの肥田美佐子氏が聞いた――。(第2回/全2回)
ジョン・リスト教授
写真=シカゴ大学提供
ジョン・リスト教授

富裕層の親は子供に投資するが、貧困層はしない

前編から続く)

——親ガチャで遺伝と環境が決まるうえ、その両方が子供にとって非常に重要であり、生まれと育ちの間には関連性があることがわかっていると教授は指摘されました(前編参照)。具体的な研究結果を教えてください。

私の妻でシカゴ大学医学部小児外科教授のダナ・サスキンドは今年10月、早期幼児教育に関する共同研究「It All Starts with Beliefs: Addressing the Roots of Educational Inequities by Shifting Parental Beliefs」(すべては信念から始まる――親の信念を変えることで教育格差の根源に取り組む)を発表しました。

(注:リスト教授、シカゴ大学経済学部研究員ジュリー・パーノーデ氏、ダナ・サスキンド医師の共同研究)

同研究から判明したことですが、富裕層と貧困層では、親が子供に与える影響について、親の信念や考え方に顕著な相違があったのです。

まず、貧しい人々は、親が子供の勉学を後押しすることで影響を与えられるとは思わないため、子供に手を差し伸べないことがわかりました。一方、豊かな家庭の親は、脳が可変的だという「科学」を理解し、そうした信念を持っているため、子供に手を差し伸べ、より多く投資することが明らかになったのです。一方で、研究では、実証実験で貧しい家庭の「信念」が変わりうることも示しています。

親の信念が変われば、子供にもっと投資するようになり、その結果、子供の成績も良くなります。たとえ親ガチャの外れくじを引いたとしても、科学が格差縮小にひと役買うことができます。完全な格差解消は無理だとしても。

ジョン・リスト氏は、経済学者として「格差は0歳から始まる」と指摘し、早期幼児教育の重要性を訴えてきた。本人も、母は秘書ながら、父はトラック運転手というブルーカラー層の家庭出身。米シカゴ大学経済学部学部長を2012~18年まで務め、現在はシカゴ大特別功労教授。主な共著に『その問題、経済学で解決できます。』(東洋経済新報社)がある。来年2月、同教授らによる早期幼児教育の実証実験などが論じられている新刊『The Voltage Effect: How to Make Good Ideas Great and Great Ideas Scale』(『ボルテージエフェクト――いかに優れたアイデアを生み出し、それを拡大させるか』仮題)を出版予定。