早期幼児教育は就学を有利にする

——あなたは2010年、他の研究者らと篤志家の寄付を得て「シカゴハイツ幼児センター」を設立しました。マイノリティーを中心とする貧困家庭の乳幼児への早期教育と母親教育プログラムを実施し、参加者を追跡調査することで、早期幼児教育が貧困層の子供たちの生涯にどのような影響を及ぼすかを調べる大規模な実証実験を行っています。『週刊東洋経済』2015年10月24日号特集「『教育』の経済学」であなたを取材した際、「格差は誕生と同時に始まる」と話していましたね(インタビュー記事「幼児期の実験で公教育を変革する」)。

実験を始めて、もうすぐ12年。同センターで学んだ子供たちは5000~7000人に達しています。1クラス15~20人の生徒に教師1人、助手1人が付きます。開設当時3~5歳児だった子供たちは、もう高校生になりました。卒業後も子供たちを追跡調査していますが、早期幼児教育を受けると、就学年齢に達したとき有利に働くことが判明しています。

中でも顕著なのが、幼児の粘り強さや自制心などの「実行機能」、いわゆるソフトスキルを鍛えると、同センター卒業後も効果が続くことです。

(注:シカゴハイツ幼児センターでは、学力アップのための認知スキルと、粘り強さや協調性などの非認知スキルを指導)

おもちゃで遊んで楽しむ多様な子供たち
写真=iStock.com/Rawpixel
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「子供さえ学校で勉強すればいい」という誤解

また、親のカリキュラム「ペアレントアカデミー」では、子供をどう教育すべきかについて、親を指導しています。格差対策で重要なのは子供だけでなく、親も教育することだからです。家族が一体となって成長する必要があります。子供さえ学校で勉強すればいいと考えがちですが、それが学校任せの育児につながるのです。子育ては、家族という共同体の仕事です。だから、学校は家族と協働すべきなのです。

低所得層を対象にした親のカリキュラムは隔週単位で開かれ、どのように子供に手を差し伸べ、わが子の成長を後押しするかについて親と話し合います。カリキュラム参加者には金銭的インセンティブが提供されます。

(注:親は年間、最大7000ドル=約79万円の給付金を得られる)

良い親になるための心構えといったソフトスキルを指導しますが、参加者はコース終了後も子供たちの教育に投資し続けています。つまり、この実証実験が子供と親の実行機能に大きな効果を与えることがわかっています。

早期幼児教育が社会にもたらす投資リターンは圧倒的とも言えるものです。国家の未来への投資という点では、ほかに並ぶものがありません。親ガチャで外れくじを引いた子供がチャンス・機会の格差を縮めることに役立ちます。