子育ては成果主義とは離して行うべき

——IQから芸術的才能、身長まで、ほぼすべてに遺伝が大きく関わっています。ハーバード大学の哲学者、マイケル・サンデル教授は、人が努力の量を評価するというのは建前で、実際には結果や貢献度を評価するのだといった指摘をしています。生まれや遺伝が人の能力などを大きく左右するという厳しい現実がある一方で、米国では「能力主義」が公正なものとされています。どう思いますか。

オンラインでインタビューに応じるジョン・リスト教授
オンラインでインタビューに応じるジョン・リスト教授

トラックの運転やレストランの給仕など、労働市場が結果に依拠しがちなことは確かですが、子育てとなると話は別です。世間が結果やお金を重視するからといって、家族への対応や育児をそうした観点から行うのは間違いです。私自身は、愛や尊敬、尊厳、誠実さ、粘り強さなどを大切にしています。

もちろん、一歩社会に出たら結果がものを言うということを子供に教えるのは重要です。だからといって、3歳や5歳、12歳といった子供たちを結果で評価し、その結果に対して見返りを与えるべきだとは思いません。社会が結果を求める競争であふれているからこそ、せめて子育ては別の方法で行うべきです。

良い能力主義・悪い能力主義

——日本は米国に比べれば平等主義的とも言えますが、能力主義に傾く企業が増えつつあります。能力を判断基準にすることについて、どう思いますか。

職場や社会には、良い能力主義と悪い能力主義があります。お互いを踏みつけんばかりに張り合ったり、頭の良さや仕事の速さを誇示し合ったりする職場には非常に悪い社風が形成されます。誰もが人間として、お互いを尊重し合う必要があります。能力主義の下で頂点に上り詰めるには、できる限りのことをしなければなりませんが、他者を傷つけてはいけません。良い能力主義を根づかせることは可能です。

ジェロントクラシー(長老支配・政治)やクレプトクラシー(収奪・盗賊政治)などは嫌でしょう。どのようなタイプの社会が可能かについて、あらゆる選択肢を考えたとき、私は民主主義と能力主義に賛成票を投じます。

2022年2月に上梓する新刊『The Voltage Effect: How to Make Good Ideas Great and Great Ideas Scale』〔『ボルテージエフェクト――いかに優れたアイデアを生み出し、それを拡大させるか』(仮題)〕でも触れましたが、悪い能力主義や社風は大きな害を及ぼしかねません。良い能力主義を機能させることが肝心です。

(注:新刊では、早期幼児教育の実証実験がコミュニティー全体の機会格差縮小につながることなどにも言及)

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