山本長官ならどう判断されるだろう

半年後、「戦況有利なうちに早期講和」の構想はミッドウェー敗戦で崩れ去ります。山本長官の悲劇は艦隊人事を本部に握られ、思うに任せないことでした。

映画『聨合艦隊司令長官 山本五十六──太平洋戦争70年目の真実』12月23日(金・祝)全国ロードショー(c)2011「山本五十六」製作委員会

戦闘開始後、南雲中将はミッドウェー島への第二次攻撃を決め、敵機動部隊の出現はないと決め込んで、航空機の兵装を海上攻撃用の雷装から陸上用の爆装へ転換を命令します。直後、敵機動部隊発見の報が入ります。第二航空戦隊の司令官、山口多聞少将は「直ちに攻撃隊発進」を進言しますが、南雲中将は却下。第一次攻撃隊収容と爆装から雷装へ再転換を命じます。出撃間近、上空に敵機来襲。主力四空母を失う敗北に至るのです。

その間、山口少将は最後まで反撃を続けました。山本長官は山口少将の仲人を務めるほど、力量を買っていました。もし、人事権を持っていたら、機動部隊司令長官に起用していたでしょう。そして、山本・山口コンビにより、ミッドウェー海戦の結果は変わったかもしれません。

イギリス人ジャーナリストが山本長官の生涯を追った『太平洋の提督』(ジョン・D・ポッター著 恒文社)の中で、もしこの海戦で勝っていたらと仮定した意外な展開が書かれています。敵空母を撃滅した山本長官はハワイを攻略。アメリカ太平洋岸からパナマ運河に迫り、アメリカのヨーロッパ派兵はなくなる。ドイツは敗北するがソ連独力によるもので、結果、鉄のカーテンは英仏海峡にまで及んだだろうと。歴史を変えるほどの影響力を持った男。だからアメリカは、仕留めなければならないと考えました。

昭和18年4月18日、ラバウル基地から前線視察に立つ山本長官は護衛機増強を断ります。己のために戦力を使わせない律儀な人柄がしのばれます。自身は死に場所を探したのかもしれません。暗号を解読した敵機が襲撃、南方の空に散るのです。

私は執務室に長官の肖像写真も飾らせていただいています。ご自身が戒めとされた言葉「常在戦場」は、経営者も常に戦いの中にいるという意識を奮い立たせてくれます。企業経営者は次々と難問に直面します。その度に「山本長官ならどう判断されるだろう」。そう問いかけ、困難に立ち向かう勇気をもらい、経営に取り組んできました。

米ルイジアナで約900万坪の工場用地を購入したときも、お写真に報告しましたが、「よくやった」といってもらえたような気がしました。現状を的確に把握し、体を張って決断実行する。山本長官と向き合い、恥じない生き方をする限り、経営がぶれることはありません。

(勝見 明=構成 尾関裕士=撮影 山本五十六の肖像写真=山本五十六記念館所蔵)