周りを見渡し格差を感じるようになった

——アメリカの政治家が親ガチャ問題に触れないのは、国民に自己責任を求めているからでしょうか。

そのとおりです。アメリカは厳格な個人主義を礎にした国です。人々は、自分自身の成果や業績は自らの責任であり、政府にはあまり干渉されたくないと考えています。為政者も、子育ては親の責任だと考えています。だから、就学前の通園などは公教育ではないのです。親は就学前教育を個人が決めることだと考えており、政府の干渉を望みません。

——アメリカの市民は家庭で親ガチャ問題について話すのでしょうか。

コロナ禍によってアメリカのシステムのもろさが露呈し、親ガチャのような問題が重視されるようになりました。親は(オンライン授業やテレワークで)子供の面倒を見なければならなくなりましたが、保育の有料サービスは非常に高くつき、人によっては、お給料が飛んでしまいます。だから、仕事を辞めて育児に専念せざるを得ない人も出てきました。こうしたことから、人々が社会や家族における自分の役割を見直すようになったのです。

——日本で親ガチャ問題が注目されるようになったのはなぜだと思いますか。

周りを見渡し、格差を感じるようになったからではないでしょうか。人は往々にして自分の境遇に責任を持つことなく、誰かのせいにしたがるものです。責める相手として、親以上にうってつけの存在はありません。「『親』という人生の宝くじに外れたから、成功できないのだ」と。

でも、そうした言い訳が適切だとは思いません。親がいなければ、この世に生を受けていなかったのですから。ですが、人は、「(生まれが違っていたら)こんなこともできたかもしれない」と考えるものです。

人生を親だけのせいにするのは言い訳

私の父はトラック運転手で、母は秘書でした。「だから、僕もトラック運転手にしかなれない」と言って、成功とは無縁の人生を送るほうが楽でしたが、そうした生き方は、私の両親にとってフェアだとは思いません。

現代の日米経済においては、頑張れば上に行ける可能性があります。そうした意味で、親だけのせいにするのは言い訳です。時にはそれが妥当な場合もあるでしょうが、多くの場合、人は自分が達成できなかったことの言い訳として、親を持ち出すものです。

大型のモダンなトラックを運転する男性
写真=iStock.com/photovs
※写真はイメージです

——「親ガチャは、人生がうまくいかない人の言い訳」だとして、自己責任論を問う声もあります。

世の中には、親が成功しているから自分も成功した人と、親にかかわらず成功した人がいます。両者は、自らの成功について異なる考えを持っていることでしょう。

人は富裕層を見て、「親や祖父がお金持ちだから成功したのだ」と考えがちですが、必ずしもそうとは言えません。親が成功の追い風になるのは紛れもない事実ですが、多くの場合、恵まれた家庭の人たちは自分自身に誇りを持ち、自力で成功したいと考えています。そして、親の力に関係なく成功できる人もいます。