「退任は世代交代」という説明は真実だったのか
それら調査報告書の内容を子細に検分しよう。5月10日の中間報告ではセクハラについて「松澤前社長は、取締役会での謝罪、社長辞任、代表権の返上及び報酬の自主返納を行っており、本件への対処として社会通念上不足するところはないと認められる」とし、松澤氏の社長退任はセクハラが原因であったことを明確に指摘している。
これが記されているのは中間報告ではあるが、その後監査役会では「すでに(外部弁護士らによって)調査済み」として、セクハラに関する調査は打ち切っており、セクハラに関してはこの中間報告が事実上の最終報告である。
電気興業は現在も世代交代によるものと言い張っているが、監査役会の報告書はこの説明を覆す内容だ。近藤忠登史社長は6月の株主総会でも松澤氏の退任を「世代交代によるもの」と説明したのは、株主にウソをついたことにならないのか。
電気興業に説明を求めたところ、「中長期経営戦略の実現を目指し、新たなリーダーシップの発揮を期待して、社長交代が行われました。『投資家の判断を誤らせかねない虚偽』とする貴殿の見解は、弊社の見解とは異なるものと認識しております」と説明にならない説明を繰り返している。
社長をひたすら守る社外取締役と監査役会
疑問はまだある。社外取締役が立ち上げた調査チームも監査役会も、松澤氏について「違法行為があったとまでは言えない」としながら、これを制止しなかった社内ナンバー2の石松康次郎専務(当時)については善管注意義務違反があったと指摘している点だ。
松澤氏のセクハラなどは違法行為ではないのに、これを見咎めなかった石松氏は違法行為があったというのでは、理屈としておかしいし、責任のバランスも悪い。石松氏に善管注意義務違反があるとするなら、それは松澤氏に違法行為があったことが前提になるはずではないか。
こうした疑問を解き明かす上で補助線になるのが、社外取締役らが指摘する「血判状」であろう。セクハラについて被害者女性から電気興業の管理部門に通報があった直後の1月29日、社内取締役が西村あさひ法律事務所に相談した際に作成した文書である。西村あさひの弁護士から取締役会で多数派を形成することが重要だとの助言を得て、5人の社内取締役が結束の証として署名捺印して社外取締役に渡したのだ。
しかし、鈴木則義社外取締役(当時)らが取締役会でこれをクーデターのための「血判状」と言い出して、これを松澤氏擁護の材料に使った。鈴木氏は自らが社長を務めていたエドモン・ドゥ・ロスチャイルド日興(SMBC日興証券の出資先で外部委託先)を通じて「利益相反取引があったのではないか」として、社内調査の対象になった人物である(この調査ではこの取引も問題なしとして片付けている)。