仮に一地区の店を軒並み営業停止にしたとしても、ホストは「個人事業主」であり、生活のために別の職場を求めて地区外の店を転々とすることが容易に予想できた。それでは感染が他地域にも広がる。一方、より強硬に全国一斉に店を閉めさせるという策は現実的ではなく、仮に実現しても膨大な補償費用と失業者が発生する。コストは増大する一方だ。吉住も高橋も、社会的な制裁によって経路が把握できない感染を広げるより、より感染を防げる実務的なやり方を選んでいた。

店の外で広がっていた意外な感染源は…

そんなやり方を取る中、保健所にとって何より大きかったのは、なぜホストたちの間で感染が広がってしまったのかという謎を突き止めたことである。彼らもそうだったが、メディアも社会も、ホストたち特有の営業形態――シャンパンタワーを作って大声でコールする、あるいは客やホスト同士で肩を組み、回し飲みで乾杯を繰り返す、無防備で刹那的などんちゃん騒ぎ――が原因で感染が広がるのだろうと想定していた。ところが、現実はまったく違っていた。

彼らが見落としていた感染経路は寮、すなわちホストたちの「ホーム」だった。ホスト業界でそれなりの家に住んでいるのは「カリスマ」と呼ばれる一部の人気ホストだけであり、地方から出てきたばかりの若いホストや、まだ売れないホストはマンションで共同生活をする。あるホストクラブの寮は、歌舞伎町近くの3LDKのマンションである。一部屋に二人、多くのスペースを共有で使い、毎日を過ごす。

ホストという仕事には、社会から弾かれた人々や底辺にいる人々の受け皿という側面が確かに存在している。他に帰る家を持たずに、歌舞伎町に飛び込んでくる人々は決して少なくない。外の社会に居場所がない彼らにも、歌舞伎町は居場所を用意してくれる。少なくとも、最初は。

ホスト「だから」感染が広がるのではなく…

店や外では感染症対策を徹底できていても、多くの人たちと同じように家の中ではマスクを外す。彼らはともに生活し、ともに職場に向かい、また同じ家へと帰る。職場と居住空間が同じで、休日までともに過ごすことになる。生活形態はシェアハウスのそれであり、感染経路はむしろハイリスクとされる家庭内感染に近いものがあった。