ホスト「だから」感染が広がるのではなく、彼らの生活スタイルの中にリスクがある。手塚は、その危険性にかなり早い段階から気づいていた経営者でもあった。「ステイホーム」を呼びかけ、いくら教育しても、およそ居心地がよく快適とは言えない寮に24時間いられないホストは、外に出ていく。彼は4月末、『フォーブス・ジャパン』のコラムでこんなことを書いている。

 そして何より問題だったのが、ちょっと具合が悪くなったら一般病院に行ってしまい、「追い返された」と不安になり、保健所に電話しまくって繋がらず、更に不安になって、直接保健所まで行ってしまったり……
 事前に動画で、医療崩壊についてももちろん説明していた。少しでも具合が悪くなったら、行政のガイドラインに従った指示を、冷静に第三者が出来るようにチームを組んで対応を考えるという施策も組んだ。
 しかし、微熱が出た従業員たちは、頭ではなく感情で動いてしまった。理想論は通用しなかった。[※]
シャンパンが注がれたシャンパングラス
写真=iStock.com/ParfonovaIuliia
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客の本名と連絡先の記入を求める徹底ぶり

手塚は結局、「ステイホーム」というアプローチを早々に諦め、方針を変えることになった。現実的に考えれば、「ホーム」がどこよりも快適という人はそんなに多くはない。家庭環境がそれほどよくなく、子どもの居場所がまったくないという家だって現実に存在している。ホスト同士の濃厚接触はゼロにはならないからこそ、衛生管理の担当者を決めて定期的に寮の見回りを始めた。

求めたのは、最低限、寮の中を清潔に保つことや、感染対策が徹底できていないバーに行かないことといった、ごくごく初歩的な事柄にとどめた。細かいところから体調管理も徹底し、それを自らにも、店舗にも課した。

店舗では、唯一、絶対の方針として客に本名と連絡先の記入を求めることも決めた。万が一、感染者が出た場合、速やかに連絡を取るために、客の情報を管理する必要があるからだ。「大切なお客様へ」と題されたA5のチェックシートがある。私も見せてもらったが、他の居酒屋や飲食店よりもはるかに厳格な情報管理を行うものだった。源氏名で生きていける街、歌舞伎町のルールを踏み越えるシートでもある。

「もし拒んだらどうするんですか?」と私が聞くと、経営スタッフは、「そのときはお引き取りいただくだけです。常連の方は皆さん協力してくれますし、むしろ、ここまでやるんですかと驚かれますよ」と淡々と言った。