「正当に怖がることはなかなか難しい」

ところで、明治から昭和にかけて活躍した物理学者の寺田寅彦は「ものを怖がらな過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなか難しい」という名言を残している。

いまオミクロン株による重症患者が多く確認されているわけではなく、病原性(毒性)の強さもまだ分からない。感染力の強さにしても動物実験などで詳細に調べられたわけではない。ところが、新聞やテレビ、そしてネットでは連日オミクロン株の感染拡大問題を取り上げ、読者や視聴者の恐怖心をあおっているところがある。メディアが不確かな情報で扇動するのはいかがなものか、と沙鴎一歩は自戒を込めて訴えたい。

ここは浮足立つことなく、正しく怖がるべきである。侮らずにきちんと基本的な防疫に努める。バランス感覚が大切だ。それが正しく怖がることにつながる。寺田寅彦が指摘するように「正当に怖がることはなかなか難しい」が、冷静に落ち着いて行動することが肝要である。

新しい変異ウイルスのオミクロン株も同じ新型コロナだ。3密(密閉・密集・密接)を回避して手洗いを励行し、暴飲暴食を止めて睡眠を十分に取り、外で太陽の光を浴びて人間本来の免疫力を保つ。ワクチンも接種する。私たちの感染対策は変わらない。

新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」感染者の国内初確認を受け、記者団の質問に答える後藤茂之厚生労働相(中央)=2021年11月30日午後、首相官邸
写真=時事通信フォト
新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」感染者の国内初確認を受け、記者団の質問に答える後藤茂之厚生労働相(中央)=2021年11月30日午後、首相官邸

「冷静なリスク評価」には賛成だが、「封じ込め」は難しい

11月30日付の朝日新聞の社説は、冒頭部分で「感染力がより強く、既存のワクチン効果が低下する可能性も指摘される。まずは最新の知見をもとに、冷静にリスク評価をしていくことが重要だ」と指摘し、後半部分では「現在は、PCR検査などで陽性反応があった者から採取したウイルスを、ゲノム解析に回さなければ株の特定はできず、数日間かかる。これをリアルタイムでチェックできるように態勢を整えたうえで、徹底した接触者調査を行うことが、封じ込めには不可欠だ」と主張する。

沙鴎一歩は「冷静なリスク評価」には賛成する。だが、「封じ込め」は難しいと思う。流行を繰り返すインフルエンザやこれまでの新型コロナの変異株の流行から分かるように、パンデミック(地球規模の流行)を引き起こす呼吸器感染症の完璧な封じ込めはできないと考えるべきだ。これは感染症対策の常識でもある。

朝日社説は見出しも「新変異株 監視と封じ込め徹底を」だが、表面的過ぎないか。社説である以上、「封じ込め」についての議論を深めてもらいたい。

朝日社説は主張する。

「様々なルートを経て、どこからオミクロン株が持ち込まれてもおかしくない状況だ。毒性をはじめウイルスの性質がはっきりしない以上、『緊急避難的な予防措置』(岸田首相)をとるのはやむを得ない。変異株の脅威を甘く見て、有効な対策をとらずに感染を広げてしまい、社会経済に大きな傷を残した過去の失敗に学ぶときだ」

「やむを得ない」とはかなり消極的な評価である。ときの政権を嫌う朝日社説らしさが滲み出ていておもしろいが、評価するときは積極的に評価すべきではないか。