防災事業のベンチャー企業「ワンテーブル」は、水なしで1日の栄養分が補える備蓄ゼリーを開発した。代表の島田昌幸さんはコンサルタントとして当時3億円の貯金があったが、事業のために使い果たしたという。そこには、東日本大震災での苦い経験があった――。
「3.11を大切な人に想いを馳せる『ハートフルデー』にしていきたい」と語る島田昌幸氏
筆者撮影
「3.11を大切な人に想いを馳せる『ハートフルデー』にしていきたい」と語る島田昌幸氏

日常使いにも防災にも使える商品やサービスを

人がモノを選ぶ時、「美味しい」「かわいい」「便利」は当たり前。ここにもうすぐ、「災害時でも使える」ことが購買動機の新たな常識となって加わるかもしれない。

コロナ禍で世界経済が停滞していた2020年、「防災ソリューション」の提供をビジネスの柱に掲げる東北発のベンチャー企業が、着々と事業拡大の足場固めに成功していた。宮城県を拠点に防災事業を手がける「ワンテーブル」。昨年だけで、同社への出資・業務提携に新たに6社が名乗りを上げた。

共有するミッションは、人々が「もしもの備え」を意識せずとも、「災害時には命をつなぎとめる役目を発揮する」商品やサービス、インフラで日常を満たしていくこと。食や教育、医療、IT、モビリティー、エネルギーなどのあらゆる分野に防災という網の目をかけていく。企業の技術革新を活用することで、長年進歩のなかった「防災」に産業としてのブレークスルーを起こそうとしている。

大地震を経験した企業が全国から集まった

“この指とまれ”を主導したのは、ワンテーブル代表・島田昌幸氏(38)。10年前、東日本大震災で避難所運営の第一線に立った経験が、太い幹のような目的意識となって自分自身の「命の使い方」を方向づけた。

提携企業は東京都をはじめ、被災経験地など全国各地から集まった。教育資材大手(東京都)や、調剤薬局・福祉サービスを展開する大阪府の企業、コンクリート製品メーカー(北海道)など6社。上場企業から中小、ベンチャーまで、規模・業種とも多岐にわたる。

これまでに出資している17社と合わせ、23社から調達した資金は累計約7億2000万円。2023年の株式上場を目指す。連携する企業を束ねた各社売上高の合計額は2兆5000億円を超えた。売り上げ規模の大きさが社会への影響力を測る指標となるならば、同じミッションを共にした企業ネットワークの存在は、防災のあり方、既存の価値観を変える“ゲームチェンジャー”になる可能性がある。

「これは決して『災害対応』ではない。日々の暮らしをめちゃくちゃハッピーなものにつくり変えていくことだ」と島田氏はいう。

震災直後の創業から10年。「あの時、本当にほしかったもの」がテクノロジーの力を借りてようやく、実装段階に入った。