——いっぽう、隋唐帝国はもともと鮮卑系がルーツです。前史としては北魏が成立した386年か、拓跋氏の代が成立した310年までさかのぼれる。南北朝時代とは、三国志の長い後日談であり、隋や唐の壮大な前日談だった時代かもしれません。
【会田】確かに時代をつないだという側面はあります。南北朝時代には新たな官制・税制・都城・美術・文学などが生み出され、隋や唐に継承されました。仏教や道教が人々の間に浸透したのもこの時代です。従来の南北朝研究もその視点からアプローチされることが多かった。ただ、当時を生きていた人たちは、別に「後世につなごう」という意識で生きていたわけではないでしょう。激動の時代をなんとか生き抜こうとして、あがいていた。
——確かに……。現代日本にしても、たぶんバブル後の長い端境期の時代なのだろうと思いますが、この時代を生きている僕たちの人生は「つなぎ」じゃありませんよね(笑)
【会田】本当にその通りです。
トライアンドエラーを繰り返した模索の時代
【会田】南北朝時代って、中国にとって「模索の時代」だったと思うのです。北も南もトライアンドエラーを繰り返していたことで、ときには子貴母死制みたいに、現代どころか当時の価値観でも仰天するような変な制度が出てくることもある。他にも南朝を傾かせた武将・侯景が称した「宇宙大将軍」、天の神との同一化を図った北周の天元皇帝、皇帝が寺院の奴隷になる捨身などなど、興味深い制度や政策があります。
——生き物の進化の過程でも、背中に帆があったり鼻の上に奇妙なトサカがあったりするヘンな生物が生まれて、その後に発展せずに絶滅するケースが多々あります。進化の袋小路みたいな存在も生まれ得ますよね。
【会田】はい。人類の歴史もそれの繰り返しだと感じます。歴史は「発展」しているのではなくて、適応と進化の繰り返し。そのなかで生き残ったものが現在まで続いている。でも、この本のなかでは生き残ったものだけではなく、トライアンドエラーの結果として消えたものも多く描きたいと考えました。
——なるほど。
【会田】そもそも、現代だって後世につながらなさそうな政策や文化ってたくさんありますよね。私たちにとっては当然視されている常識だって、実は「進化の袋小路」に入っていて後世に継承されないものかもしれません(笑)。だからといって、それがすべて無駄かというと、そんなわけないですよね。歴史もそんなふうにみると、さらに面白くなるような気がします。