サイバー技術を国策として推し進めるロシア

ただし、ロシア政府とハッカー集団は微妙な関係にある。バイデン大統領は5月のパイプライン攻撃について、「ロシア政府の指示によるものではないが、プーチン政権は対処する責任がある」と述べていた。

ロシアの若者は理数系やコンピューター技術にすぐれた人材が多いが、製造業が不振で、技術を生かせる職場は少ない。勢い、ハッカー集団に人材が集まり、雇用確保の場となる。ロシアはサイバー技術を国策として重視しており、2000年のプーチン政権発足直後、連邦保安庁(FSB)と軍参謀本部情報総局(GRU)に付属のサイバー部隊を創設した。

その技術力が脚光を浴びたのは2016年の米大統領選で、ロシアは民主党のクリントン陣営に大規模なハッカー攻撃や偽情報工作を行い、親露派・トランプ候補の勝利に一役買ったといわれる。米議会は選挙干渉に激怒し、厳しい対露経済制裁を発動した。

「西側のターゲットを攻撃することは容認されている」

過去1年のランサムウエア攻撃の58%はロシアのハッカー集団から来たことも、マイクロソフト社が10月に公表した年次報告書で分かった。攻撃の出どころの2位以下は、北朝鮮(23%)、イラン(11%)、中国(8%)。被害を受けたのは、①米国(46%)②ウクライナ(19%)③英国(9%)の順だった。

政府とハッカーの連携が焦点になるが、米誌「フォーリン・ポリシー」(電子版、11月9日付)は、「ロシア政府が民間ハッカー集団を管理しているかどうかは不明だが、彼らの悪意ある活動を容認しているのは確実」と指摘した。

ロシア人の元ハッカーは同誌に対し、「ロシアや旧ソ連同盟国の標的を攻撃すれば、当局に訴追されるが、西側のターゲットを攻撃することは容認され、違法ではない」と述べた。

元ハッカーによれば、ロシア当局にとっては、ハッカー集団が欧米の標的を攻撃することで、社会不安をあおり、米欧間の不和を助長できるほか、スキルや技術を相互に高めるメリットもあるという。