アメリカにキーエンスのような企業があれば、間違いなく就職希望者が殺到する。海外では「あの会社は給料が高い」と聞けば、みんなが転職しようと考えるのが常識だ。しかし、日本人は「いいなぁ」と羨ましがるだけで自分の問題として考えない。日本では人ごとになってしまうところに問題がある。

転職が当たり前の国では、企業も給料の高さを競って、優秀な人材を採用し、辞めていかないようにする。需要と供給によって、給料は自然に上がっていくのだ。

まるで共産主義社会

日本では、政府が最低賃金を指図したり、経済団体に賃上げを要請したりする。まるで共産主義社会だ。上から目線で無理に給料を上げさせれば、企業は潰れかねない。

日本人はいったん就職したら、給料が上がらなくても、なぜか転職しない。そのくせ同じ会社の同期と少しでも差がつくと胃潰瘍になるくらい悔しがる。給料が高い会社に移ろうと必死にもがくことがない。働く人の多くが必死にもがいたら、アメリカと同じ水準の給料になっていただろう。

アメリカには3つの転職がある。会社を移る転職、地域を移る転職、業界を移る転職の3つだ。

転職で最も容易なのは、同業他社に移ることだ。だから多くの会社は、辞めても5年間は同業他社に就職してはならないというルールを設けている。5年経つまで、タクシードライバーなどで食いつなぐ人たちもいる。

地域を移る転職は、アメリカでは地域の給与格差があるからだ。東海岸、西海岸に比べて、中西部、南部、テキサス州などは給料が安い半面、所得税がないなど生活費はかからない。昔は西へ西へと向かったが、いまは両岸の物価が高すぎるから、テキサスなどで暮らす人も増えている。

業界を移る転職は、アメリカは業界の給与格差が大きいから当たり前に行われる。例えばIT技術者なら、製造業から金融業界に転職すれば給料は跳ね上がる。

このようにアメリカは会社、地域、業界を移る転職によって、国全体で人材が交ざり合って活気づいている。この転職のためのデータも豊富に揃っているし、リンクトインなどでも具体的な転職の話にありつける。

上昇志向がないことは、日本の深刻な問題だ。40代後半から50代まで給料のピークを迎えても、レジャーなどに使わなくて貯金にまわしてしまう。その結果、個人金融資産は約2000兆円。30年前と比較してGDPが伸びないまま、個人金融資産だけが2倍近くになっている。そのうち半分の1000兆円ほどが現金・預金で、預金は0.01%しか利息がつかない。私が言う“低欲望社会”は、日本の給料が上がらない根本原因だ。

海外では、給料が高い仕事に就くために、外国に移住することも珍しくない。コンピュータ言語と英語ができれば、アメリカへ渡ってGAFAに転職しようと考える。しかし、日本では海外に行って稼ごうと必死にITと英語を勉強する人はほとんどいない。