【東】いま辻田さんが指摘したように、経済的な面でも大きいです。ゲンロン完全中継チャンネルの番組は税込みで990円です。4000人がみてるということはもしすべて単独購入ならほぼ400万円の売り上げです。書籍でいえば、新書の5000部ほどに相当する額を数時間で売り上げる。これは大変なことです。

コミュニティは完全に閉じないほうが強くなる

【東】既存の出版社は、対談というと、数回収録して活字化して本にまとめるということしか考えていない。でもそれならシラスで3~4回放送して、その売り上げも手に入れたうえで、そのあと新書にまとめて発売すればいいと思うんですね。シラスはそういう点でも新しいモデルを提供していると思います。

いずれにせよ、コミュニティの内側に閉じこもるのではなく、かといって完全にオープンにするのでもない「ドーナツ理論」は以前から考えていました。シラスはその意図に基づいて作ったサービスなのですが、それがコメントの質に反映され、最初にいったように視聴者のコミュニティづくりをむしろ強力に後押ししたのは予想外でした。コミュニティは完全に閉じないほうが強くなるんだと思います。

撮影カメラ
撮影=西田香織

ざっくりとした見取り図を示すことが論壇人の仕事

【辻田】ツイッターなどのツッコミ文化に懲りて、防衛的な発信の技術が磨かれるほど、「自分は何のためにこの仕事をしているんだ?」と疑問がわくし、不満も募ってくるんですね。「ざっくり言うと、こうだよね」と、見取り図を示すことこそ、じつは論壇人の仕事でしょう。もともと揚げ足を取られやすいんです。シラスの場合は、それがないから気兼ねなく喋れるんだと思います。

【東】もしシラスがなくなったら、ユーザーは番組が配信されないことよりも、むしろあのコメント空間がなくなったことを寂しく思うかもしれません。コメント欄は一種の社交の場になっている。その点では、もはやシラスはただの配信プラットフォームではない。「これはなかなか閉じることのできないサービスを立ち上げてしまったな」という新しい責任感を感じています。

【辻田】番組に参加するためにわざわざ有給を取る人もいますね。それぐらい何かコメントしたい。

【東】配信者もコメントを楽しみにしている。ぼくはけっこうハンドル名を憶えているから、常連さんのコメントが見当たらないと不安になる。「あ、ぼくから離れていったのかな」って(笑)

【辻田】分かりますね。「そうか、仕事へ行っちゃったのか」って。「前回、まずいこと言ったかな」と気になって緊張感にもつながる。