なぜ単独課金システムを作ったか

【東】ぼくは『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン)で、村人(内側)と旅人(外側)の間に「観光客」がつくる第三の領域があるんだという話を書きました。それはシラスとも深く関係しています。具体的にはコミュニティの内と外の中間領域であるいわば「ドーナツ型の空間」を用意するということです。じつはそれが単独課金のシステムなんですね。

配信者の方は、みんなチャンネルの会員数を増やそうとします。それは当然なのですが、運営側からすると、じつは単独課金のドーナツ部分の役割が大きいのです。というのも、それによって配信内容にある種の公共性が保たれて、完全に内輪向けの話ができなくなるからです。

うちの放送は、基本的に単独購入ができるものが多く、また「アーカイブ」といってあとから視聴できることを前提にしています。それは配信者の方にも納得をもらっています。そうすることで、完全に閉じないようにしているのです。

例えば、録画が禁止された会員向けのオンラインサロン放送などがありますね。あれはシラスとはまったく違うサービスです。あのような放送ではなんでも言い捨てることができます。ここだけで本音話すよ、ということで課金させるわけです。でも、そういうことをやるとだんだん視聴者の質が落ちてくる。

他方でシラスでは、単独課金があるので基本的にだれが観るか分からない。だからそれができない。オンラインサロンはそのようなドーナツの部分がないから、信者商売になっていくのだと考えています。

哲学者の東浩紀さんと近現代史研究者の辻田真佐憲さん
撮影=西田香織

新書5000部を数時間で売り上げるスケール

【辻田】大物ゲストを呼ぶと、シラスを知らなかった人に数百人単位で視聴してもらえることがあります。コメント欄の雰囲気も変わるし、閉鎖空間じゃないから、いろいろ気をつけて喋らなくちゃいけない。発信側としては、数百の単独課金があるから経済的にも大きいですよ。番組の質を高めるうえで、ドーナツ部分が重要であることはよく分かります。

【東】社会学者の宮台真司さんと西田亮介さん、ぼくの3人で話したときは、1000人弱のチャンネル会員とは別に、3000人ほどの単独購入がありました。およそ4000人に観てもらえるって驚きで、会員以外に3000人が観ていると思えば、話の内容もおのずと公共的になります。