フィルターの質を高めることを考えるべき

【辻田】PVばかり狙うと、ネット右翼向けにしろ、ネット左翼向けにしろ、常にその人たちにウケる話を発信することになる。たった一個の発言でも、機嫌を損ねるとパッと反対側にまわってしまうからです。自分たちにウケることだけを言ってほしい読者や視聴者を相手にすると、そういう怖さがあるし、どんどん過激にならざるをえません。いわば“忠誠心競争”になってしまうんですね。

中間集団がいてくれると、そうはならない。その意味で、シラスは情報発信のうえで“出撃の拠点”になると思います。

【東】見たい情報しか見えなくなる「フィルターバブル」ってあるじゃないですか。憲法学者のキャス・サンスティーンがいうように、それに対してセレンディピティボタン(偶然性ボタン)をつくり、ランダムに情報が出てくるように工夫したらいいのではないかという提案がある。でもぼくは、そういった考えはちょっとシンプルすぎると思うんですよ。それだと、結局、人間は孤独に情報を受け取るだけだからです。

コミュニティも、本質はフィルターバブルだと思うんですよ。人間はその点ではフィルターバブルなしには生きられない。人間は、だれにしても自分が好む情報だけでバブルをつくってしまうもので、最近はAIによってさらに強化されるようになったというだけです。

だから、フィルターバブルの外に出るというよりも、フィルターの質を高めることを考えるべきだと思うんです。それはつまり、コミュニティの質を高めるということ。シラスにしてもゲンロンにしても、「閉じた一部の人たち向けのサービス」だと批判されることがあるんですが、閉じてても質が高ければいいんだと思うんですよね。むしろいま問題なのは、コミュニティの質ということを考えず、ただ「オープンであればいい」とみんなが思考停止していることだと思います。

東浩紀さん
撮影=西田香織

オンラインサロンにはない緊張感がある

【辻田】会員が頻繁に入れ替わるのもシラスの特徴ですよね。私のチャンネルは、毎月100人が入って100人が出ていく感じです。数百単位の会員数で、100人の出入りは大きいです。

だから、オンラインサロン的ないわゆる“信者”に向かって喋りつづける感じと違って緊張感があります。ある種のぬくもりを感じる一方で、そこに安住すると厳しい審判を受けてしまう、という関係性はある。

会員は月2000円(税抜)でチャンネルは見放題ですが、それとは別に1番組だけ視聴する場合は300円からの単独購入もある。お試しで1番組を観て「おもしろかったから」と入会してくれる人もいれば、入会したあとまた単独購入に戻る人もいる。そういう出入りできるシステムは緊張感を生みますね。