番組に自動字幕をつけ、ゆくゆくは自動翻訳へ

【東】ローンチ1周年を終え、いま運営サイドで考えているのは、番組にリアルタイムの自動生成字幕をつけることです。すでに社内で調査は始めていて、2022年には、実現できると思います。字幕ができたら、次は自動翻訳を考えています。そうなれば、ぼくたちのトークを外国人も観ることができる。

ぼくはそれもシラスの使命かなと思っているんです。というのも、いまはグローバル化といっても、人間としての肉声はまだまだ国境を超えていない。これはなかなか表現が難しいんですけれど、一言でいえば、全世界的にリベラルな人たちはリベラルなことばかり言っているように思うんですね。どの国でもリベラルな人たちは、「自分たちはグローバルでリベラルでつながっているのに、足元に愚かな排外主義者的なナショナリストがいて困る」と主張している。

でも、そのくせその足元の人たちとは交流しない。小説家のカズオ・イシグロ氏が指摘した通りです。だから、リベラルな人たちに対して「あいつら空理空論ばかりでおかしいんじゃない?」と思っている人もまた全世界的にいる。

【辻田】いるでしょうね。

東浩紀さん
撮影=西田香織

長い時間をかけて現実に即した議論をする

【東】そういう状況を変えたいんですよね。いわゆる「リベラル」が、その内輪の言葉だけでグローバルにつながる、それだけが正義に聞こえるという状況をなんとかしたい。

ぼくがシラスで「長い時間をかけて喋ることが大事だ」と主張している理由はそこにあるんです。理論的に言えば、リベラルな人たちはたしかに正しい。でも現実ってもっと複雑でしょう。ところが、その「でも」をやろうとするとたいへん手間がかかる。「SDGsが大事」「多様性が大事」「ジェンダーバランスが大事」……そりゃそうで、そんなことは議論しなくても同意できるわけです。でもそこで「ジェンダーバランスに取り組むことは大事ですが……」と、「が」をつけた瞬間に、議論はものすごく長くなる。

【辻田】ツイッターで、その「が」をつけたら、「が」とは何だと叩かれますよね。

【東】でも、現実にはみんな、その「が」のあとが大切だと分かっている。それでこそ実践が問われるわけですよね。そこで相互理解なり妥協なりに到達するためには、きちんと信頼関係を作る必要がある。その手間なしに性急に改革を訴えても、不信感が高まるばかりだと思います。