東京町田市で小6の女の子がいじめを苦に自殺した。大津市の事件をきっかけに2013年、「いじめ防止対策推進法」が施行されたが、依然として学校現場ではいじめの隠蔽が続いている。なぜ教員たちはいじめの存在を隠そうとするのか――。
学校の教室
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いじめの構造問題の解決に取り組んだ法律

「いじめ防止対策推進法」(以下、いじめ防止法)は2013年、滋賀県大津市で当時・中学2年生の男子生徒がいじめを苦に自殺した事件(亡くなったのは2011年10月)を契機に成立した。この事件では、男子生徒がいじめを訴えていたにもかかわらず、担任の教師が対処しなかったことや自殺後に学校がいじめとの因果関係を否定したこと、学校や教育委員会の遺族に寄り添わない姿勢などに非難が殺到し、大きな社会問題となった。

立法に関わった小西洋之参院議員(立憲民主党)は次のように説明する。

「大津市の事件だけでなく、日本の学校現場では悲惨ないじめ自死事件が繰り返し起きていました。このようなことが起きる原因には、いじめの予防、早期発見、適切な事案対処の実施を妨げている構造上の問題がある。そう考えて、これら三つの対策に関する構造問題を抜本的に解決する仕組みを織り込んだのが、いじめ防止法です」

構造問題とは具体的には、担任や一部の教師だけでいじめを放置してしまう学級運営の閉鎖性のことなどを指す。

「いじめの深刻さに理解が足りない教員、指導力が欠ける教員はいる。そうした限られた教職員の資質によっていじめが見逃されないようにするために、すべての学校に複数の教職員が加わる『学校いじめ対策委員会』という組織を設置することを義務付けました(※1)。学校で起きるいじめはすべていじめ対策委員が調べて、認定して、被害者の子どもを救い出す仕組みです。複数の教員が関わることで、経験年数やクラスの垣根を超えた教員同士のつながりを深めることも目的としています」

いじめ対策委員会には、子どもにとってもっとも身近な学級・教科担任はもちろん、生徒指導担当、学年主任、養護教諭、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーなど学校内の職員だけでなく、弁護士や医師などの外部専門家が参加することができ、いじめ解決に向けて知恵を出し合う。さらに、学校では「学校いじめ防止基本方針」(※2)を策定することになっている。

「学校いじめ防止基本方針には2つの柱があります。ひとつは、いじめの予防のためにいじめが起きにくい環境をつくることに役立つ授業などを年間通じて計画的に行う『いじめの防止プログラム』、もう一つが『早期発見・事案対処マニュアル』の策定です。これらによって、いじめの『予防』『早期発見』、適切な『事案対処』を可能にしていきます。いじめ防止法は、重大事態のための法律だというイメージが広がってしまいましたが、最大の本質はそこではありません。一番の想いは、いじめは起こるという前提で構造問題を乗り越えた実効性のある対策を行い、いじめで子どもが死ぬことをゼロにする。重大事態のようなことを絶対に起こさせない。そのための法律なんです」

※1 「いじめ防止対策推進法」22条 「学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、当該学校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織を置くものとする」。
※2 「いじめ防止対策推進法」13条 「学校は、いじめ防止基本方針又は地方いじめ防止基本方針を参酌し、その学校の実情に応じ、当該学校におけるいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針を定めるものとする」。