その中では、風任せ、潮任せの経営をするわけにはいきません。もし計画なしにNHK丸を出航させれば、3年後にはとんでもない港に着いているかもしれません。そこで、3年先にどこの港に船を着けるのかという目的地を中期計画ではっきり示し、毎年の年次計画では、その航路からはずれていないかどうかをチェックすることにしました。
三次元の変化を乗り切るための判断の軸足ということです。
私が自分に課したもう一つのミッションは、NHKを「コンプライアンスマインドに満ちあふれた、ビビッドな風通しのよい組織に変えること」でした。
2年前、1万数千人におよぶNHKの職員は、わずか数人の心ない職員が引き起こした不祥事によって、伏し目がちに仕事をしなくてはいけませんでした。最大の原因は、組織の風通しが悪かったことだと思います。
どの組織も指揮命令系統である上下のコミュニケーションはとれています。しかし、左右方向のコミュニケーションは意識してやらないと円滑には運びません。NHKの問題点もそこにありました。だから私は、人事などの取り組みによって、硬直化した組織に横風を通そうと決めたのです。
それにはまず、職員とアナログな対話を重ねることだと考えました。というのは、不祥事の続発を受けて、NHKは前任の橋本元一会長の時代に本格的なコンプライアンス委員会をつくり、細かなマニュアルを定めていました。仕組みとしては完璧だったはずでした。
ところが実際には、橋本会長の任期満了間際に職員によるインサイダー取引問題が発覚し、橋本さんは任期満了当日に辞任するという苦しい対応をしなくてはなりませんでした。
やはり形は立派でもそれだけでは駄目で、形の中に心が入っていなければいけないのです。では、形に心を入れるにはどうすればいいのか。考え付いたのが、職員たちとの対話を徹底するということでした。