こうして「うつ病もどき」の患者が増えることになった。彼らは自分たちがうつ病であると信じ込んでいる。しかも半端にうつ病の知識を持っているがために、「静養の必要」「励ましてはいけない」「無理に仕事をさせると再燃する」などを権利として要求するようになった。

だがそうした人たちは抗うつ薬では治らないし、同僚から見れば権利を振りかざして強引に休暇を取得しているようにしか感じられない。

実際、うつ病もどきの人たち(比較的若い年代にシフトしている)の多くは、会社ではまさに「うつ」に押し潰されそうな様子であるのに、自宅で静養するとなると、途端に元気を取り戻す。病欠のくせにウィークデイに東京ディズニーランドなどへ出掛けてブログやらフェイスブックに写真を載せたりする。おまけに、病欠の期間が終わって出勤が近づくとまたうつっぽくなる。

これでは社会通念上許されまい。「うつ貴族」などといった言葉まで生まれるようになった。そして、2012年4月29日にNHKスペシャルで放送された「職場を襲う“新型うつ”」によって新型うつ病なる名称は一気に広まるに至った。

絶望感でベッドから立ち上がれない男性
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眠れない、自分を責める従来型うつ病

従来型うつ病と新型うつ病とでは、症状においてどのような違いがあるだろうか。

従来型では不眠(早朝覚醒)が特徴的であった。新型では不眠の患者もいるが逆に過眠となることも多い。従来型では食欲は落ちるが、新型では過食に走るケースも散見される。従来型では自責感の存在が重要であったが、新型では逆に他人が悪いと主張する(他責的)。従来型では全般的な興味関心の喪失が見られたが、新型では場面選択的になる。すなわち職場では何もする意欲も元気もなくなるけれど、自宅ではゲームやSNSに夢中になったりと、様子がまるで異なるのである。

新型でも自殺企図は生ずることがあるけれど、中途半端OD(オーバードーズ、過量服薬)やリストカットなどが多い(それでも場合によっては死んでしまいかねない)。