両親が離婚し、マスクと弟は父のもとで暮らしたが、17歳で母が住むカナダへ移住した。その後、アメリカのペンシルベニア大学で経済学と物理学の学位を取得して、スタンフォード大学の大学院へ進むが、すぐに退学して弟とオンラインコンテンツ出版ソフトの会社を起業した。99年にオンライン決済サービスの会社を立ち上げ、この会社はのちに合併してペイパル社になる。

当時の経験は、非常にプラスになったようだ。まったく新しいものを考えて商売にすれば、儲かることを学んだからだ。しかし常に利益を志向するのでなく、既存の問題の解決にとにかく取り組む。何か問題を発見すると、独自の解決策を出す性格だ。

例えば、18年にタイで起きたサッカーチームの少年たちが大雨の水で洞窟に閉じ込められた事故のときだ。ニュースを聞いたマスクは、ミニ潜水艦で少年たちを運ぶプランを立て、約48時間で潜水艦のプロトタイプを作った。

彼のプランは採用されなかったが、マスクは常にモノの形で答えを出す。エジソンが当時の社会で不便な点を見つけ、独自の発明で解決していったのに似ている。

04年にテスラに出資して会長になったのも、EVが気候変動問題の解決になるからだ。ただ彼の発想は、単に内燃機関をモーターに替えるだけではない。必ず他人と違うことを考える。最大の点は、新しいクルマは動力が心臓部でなく、コンピュータだと考えたことだ。スマホと同じように、OTA(Over the Air:無線通信)でEVとつながり、車載コンピュータのOSを遠隔で更新できるようにした。

トヨタ超えしたテスラの強みとは

テスラのOTAは、まさにIoT(Internet of Things)の発想で、通信機器メーカー大手の米シスコシステムズの流れを汲むものだ。シスコのCEOを20年務めたジョン・チェンバースは、「IoT(Internet of Things)では足りない。IoE(Internet of Everything)が必要だ」と言った人物だが、同社のルーターは、すべてシスコ本社のコンピュータとつながっている。

納入先でトラブルが起きていないかを24時間365日モニターしていて、トラブルが発生すれば、9割以上は遠隔操作で修理する。競合企業のように、機器に故障が発生したらサービスマンを派遣する、という人海戦術が必要ない。イーロン・マスクは、まさにシスコの発想をクルマに当てはめたのだ。