講談社が激怒した2016年の“キンドル事件”
講談社とアマゾンのにらみ合いは、半端ではなかった。
アマゾンは、2016年8月に電子書籍読み放題サービス「キンドル・アンリミテッド」(月額980円)を開始したが、スタートしてほどなく、講談社が提供していた1000超のすべての作品を、突然、通告もなしに読み放題のリストから削除して配信を停止してしまった。
この措置に対し、講談社は「配信の一方的な停止に強く抗議する」と猛反発。出版社は著作者から合意を得た上で作品を提供していることを強調し、配信停止は「読者や著作者の理解が得られない」と怒った。
小学館や光文社など多くの出版社の作品もリストから外されたため、講談社が出版界を代表する形でアマゾンと対峙したのである。
アマゾンは、突然の配信停止の理由を明かさなかったが、当初の想定以上に「キンドル・アンリミテッド」の利用が集中し、出版社に支払う閲読料の予算が底をついたため、などと取り沙汰された。つまり、カネの切れ目が縁の切れ目だったのだ。
当時、アマゾンの電子書籍販売は、出版社に競合他社と同レベルの価格や品ぞろえを要求する強権行為が問題視され、公正取引委員会がアマゾンに立ち入り調査をしたばかりで、アマゾンへの忌避感は極度に高まっていた。
豊富な資金力にものを言わせて日本の出版界の慣行を打ち破ろうとするアマゾンと、戦後長く続いてきた日本独自の流通システムを重視する出版界は、アマゾンが2000年に日本上陸して以来、常に角を突き合わせてきた。
それだけに、出版界の盟主がアマゾンとの直接取引を決断したことは、まさに「君子は豹変する」であり、「昨日の敵は今日の友」であった。
ネット書店も、取次会社もアマゾンが担う
構造不況が続く出版界は、今、構造改革の荒波の真っただ中にいる。
ネット社会の進展で、読者の本離れが進み「町の本屋さん」が消える一方、電子書籍が広がりネット直販が拡大しているという話は、語られて久しいが、ここにきて、アマゾンの存在感が一段と大きくなってきた。
アマゾンは、「豊富な品揃えと読者への迅速な配送」を旗印に、硬直化した従来の流通システムに次々に挑み、半ば強引ともいえる手法で、流通改革を進めているのだ。
日本上陸当初は既存の流通システムにのっとり、1ネット書店として取次最大手の日本出版販売(日販)などから書籍を入手し読者に届けてきたが、納品までのタイムラグや欠品の多さにしびれを切らし、数年前から中小出版社を中心に直接取引を呼びかけるようになった。その数は、2020年初頭時点で3600社を超える。直接取引が販売額に占める割合は、過半をはるかに超えるという。
かつての書籍販売は、読者が書店に注文すると、手元に届くまでに1~2週間かかるのが当たり前、場合によっては忘れたころに入荷の連絡がくるという悠長な商売だったが、今やアマゾンで購入すれば24時間以内に自宅に届けられ雑誌も発売日に配達されるようになり、読者と出版社の距離感は劇的に変わった。