さらに、アマゾンは最近、地方の小規模書店向けに、全国に広げた独自の物流網を使って、書籍を配送する卸業に乗り出した。本来は取次会社の仕事だが、ベストセラーや新刊の売れ筋の本が速やかに配本されない書店の不満をすくい取ろうというもので、出版社と書店の距離感も大きく変わろうとしている。

アマゾンは、書店との直接取引の拡大で従来の取次システムを空洞化してきたが、書店への配送は取次会社にとって代わろうというものである。「ネット書店としてのアマゾン」に「取次会社としてのアマゾン」が加わったのだ。

こうした中で始まった「講談社とアマゾンの直接取引」は、従来の流通システムが限界に達している証左ともいえ、様変わりする出版界を象徴する出来事といえそうだ。

「中吊り広告が消えた…」加速するデジタルシフト

出版界では、暗い話が続く。

この秋には、電車の中吊り広告に小さな異変が起きた。「車内の風物詩」とも言われた週刊誌主要4誌の中吊り広告がすべて姿を消したのだ。

『週刊文春』が8月で、『週刊新潮』は9月いっぱいで取り止めた。既に、『週刊ポスト』は15年末、『週刊現代』も17年に撤退している。

車内広告
写真=iStock.com/Thomas Faull
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その理由は、乗客がスマートフォンに熱中して中吊り広告に目がいかなくなったうえ、駅の売店が激減して中吊り広告を見て雑誌を購入する気になっても買うに買えず、売り上げに結びつかなくなったからという。

印刷メディアからネットメディアへ移行する、ライフスタイルの変化を物語る一事と言えるだろう。

書籍や雑誌の販売額がピーク時の半分以下に落ち込み、返品率は書籍で3割程度、雑誌は4割程度に高止まりするのも致し方ないかもしれない。

電子書籍は急成長「縮む出版市場の“ささやかな光明”」

ただ、縮む一方だった出版市場だが、コロナ禍の巣ごもり需要もあって、少し事情が変わってきた。

電子書籍が急成長し、紙媒体も下げ止まりの兆しが見え、ささやかな光明がさしてきたのだ。

全国出版協会・出版科学研究所によると、紙媒体と電子書籍を合わせた販売額は、2019年に前年比0.2%増と、前年をわずかながら上回り、20年には同4.8%増の1兆6168億円と、2年連続のプラスを記録した。

さらに、21年上半期は、前年同期比8.6%増の8632億円となり、回復トレンドが続いている。

牽引したのは電子コミックを中心とする電子書籍で、同24.1%増の2187億円と急伸し、出版市場全体における占有率は25.3%にまで膨らんだ。

一方、紙媒体も、同4.2%増の6445億円となり、と久々にプラスに転じた。内訳は、書籍が3686億円(同4.8%増)、雑誌2759億円(同3.5%増)。数字は取次ルートのみのため、直販を含めるとさらに大きくなりそうだ。