衆議院が解散した。総選挙での政権交代を目指して、立憲民主党と共産党は野党候補の一本化を進めている。文筆家の古谷経衡さんは「野党共闘で勝てる選挙区があったとしても、それは数字上のマジックにすぎない。野党に必要なのは、じっくり支持を広げていく忍耐力だ」という――。
「ニコニコ動画」の党首討論会で、自民党総裁の岸田文雄首相と公明党の山口那津男代表を挟んで討論する日本維新の会の松井一郎代表と立憲民主党の枝野幸男代表。右端は共産党の志位和夫委員長=2021年10月17日、東京都中央区のドワンゴ本社[代表撮影]
写真=時事通信フォト
「ニコニコ動画」の党首討論会で、自民党総裁の岸田文雄首相と公明党の山口那津男代表を挟んで討論する日本維新の会の松井一郎代表と立憲民主党の枝野幸男代表。右端は共産党の志位和夫委員長=2021年10月17日、東京都中央区のドワンゴ本社[代表撮影]

思想信条の修正すら図るケースも

2009年、麻生自民党から鳩山民主党への政権交代が実現した。しかしその民主党政権は、鳩山→菅→野田と約3年3カ月で瓦解。以降、第2次安倍政権が憲政史上最長の内閣として君臨し、菅義偉内閣、岸田新内閣と自民党支配が続いている。

政治的リベラルが多いとされる野党支持者は、この状況に対して暗澹たる感情を抱いている。「民主主義を軽視し、官邸主導の強権を発動させてきた第2次安倍以降の自民党政権が有権者に支持され続けるのは、われわれリベラル側にこそ問題があるからだ」と。このようなリベラル側からのリベラル批判が、特に第2次安倍政権の後期から盛んになってきた。

衆参の国政選挙を経ても自民党が勝利し続けるので、いよいよリベラルは自分たちがダメだと自虐に走るようになり、このままでは大衆に支持されないと思想信条の修正すら図るケースが散見されている。なぜこのようなことになってしまったのか。

リベラルからのリベラル批判といった言説に、私は幻滅する。結論から言えば、たかが一時期の政権交代に成功したぐらいで、その成功体験にしがみついて二度目があるはずだ、と思っているその魂魄の矮小さである。

思い出してみれば、55年体制を崩壊させた1993年の細川連立政権は、自民党から離党した小沢一郎氏らの勢力が細川護熙を首班に祭り上げた連合政権に他ならなかった。細川内閣の本質とは、自民党Aから自民党A'(ダッシュ)が分派して数合わせで作った非自民政権で、とどのつまりは自民党の亜種であった。

09年の民主党政権誕生は、真の政権交代ではない

翻って09年からの民主党政権はというと、これも鳩山由紀夫氏、小沢一郎氏は元自民党の政治家で、草の根市民運動家として完全に純然たる非自民の出自を持つのは菅直人氏だけであった。09年時点では、小沢氏の影響力は現在よりも比較にならないほど顕著であり、そのような要素を加味すれば09年の自民から民主への政権交代も、「50%の政権交代」と言えなくもない。

つまりは55年体制以降の戦後日本政治で、真の意味で政権交代が起こった瞬間など、いまだかつてなかったのである。ここが第一の齟齬そごである。93年の細川連立政権はともかく、09年の民主党政権誕生によって真の政権交代が実現したと思っているからこそ、「二度目がある」という夢想にたどり着くのである。

しかし09年のそれですら、完全な政権交代ではないことを前提とすれば、そもそもリベラルは、「いまだかつて一度も自民党に勝利したことがない」のであり、これを既定方針として戦略を立て直さなければならない。