取材直前に、外側カメラを壊してしまった
真夏の昼間から取材がはじまった。
仕事、プライベート、食事、買い物、すべてカメラマンさんがついてまわる。その日は朝から渋谷へ行き、打ち合わせをしたあと、友人が開店した店に顔を出す予定だった。
わたしは、前週すでに悲劇を起こしていた。歩いている途中にスマホをコンクリートに落とし、外側カメラがまったく使えなくなった。
カメラを起動させても、画面にはなにも映らない。虚無だけが広がる。
内側カメラはかろうじて使えるので、写真を撮らなければいけないときは、内側カメラを使った。
ものだけ撮ろうとしても、背面からは画面が見えないのでうまく写らない。
仕方なく、ものと一緒にわたしも写るようにした。自撮りだ。友人に自分の現在地を伝えるにも、近くの建物と自撮り。目にも美しいケーキセットと自撮り。なんでもかんでも自撮り。撮らなければならなかった写真にはすべて、必要のないわたしが写りこんでいた。カメラロールは三浦大輔の自撮りのような構図で埋めつくされた。
取材の中で堂々と「スマホが割れてても、なんの不便もないんですよ!」と宣言する予定が、早くも出鼻をくじかれた。くじくどころか、骨折している。もはや消化試合のよそおいである。
会う人、会う人のスマホがことごとく割れていた
「おっちょこちょいで、忘れものをよくする」「時間にルーズでだいたいあわてている」「視野がかなりせまく、水の入ったコップを頻繁にたおす」
取材を受ける中で、わたしが無意識にやらかしてしまったことだ。うっかり画面を見せたら、LINEの未読が546件もたまってた。
白昼堂々と失態をカメラに収められてしまったせいで、スマホが割れて恥ずかしいというより、スマホを割ってしまうようなだらしない自分が恥ずかしくなってきた。
ただひとつ、救われたのは。
密着取材中にわたしと会う人、会う人のスマホがことごとく割れていたのだ。
カラスの牧野圭太さん、ANOBAKAの森真梨乃さん、コルクの佐渡島庸平さん。もれなく全員、活躍するフィールドは違えど天才的な人たちだ。
その天才たちが、密着取材中の岸田と会ってしまったばかりに「スマホが割れてる知人としてひと言ください」とカメラを向けられていた。完全な巻きこまれ事故である。
牧野さんは「こんなのなんでもないですよ。気にしたこともないです。っていうか、修理してもまた割れるかもしれないし」といった。
森さんは「これJOJOコラボのスマホなんですよ。割れてるほうが“歴戦をくぐり抜けてきたスマホ”って感じがしてかっこいいでしょ」といった。
佐渡島さんは「修理できるならした方がいいけど、時間は限られてるんだから、これを修理にもっていくより、優先度が高いことをやった方がいいですよね」といった。
自信を失いかけていたわたしに、力がみなぎってきた。わたしは、だらしないわたしのことをあまり信じてないけど、わたしのまわりにいる天才たちのことは信じている。
天才たちがそういっているのだから、信じていいのだ。スマホが割れていても臆することはない。