「今まで通りでいい」と反対意見も出ていた

なお、工藤会に対して体を張った捜査をしたのは古賀刑事ひとりではない。福岡県警は一丸となった。たとえば事務所の家宅捜索をすると捜査員の妻や子女の写真が広げてあったりした。県警の捜査員たちはそれを見て憤激したのである。

【國松】暴力団対策法を作る時、僕は古賀君に電話して、いろいろ相談をしていたんだ。彼は現場では有名な刑事だったからね。

あの時、現場の刑事たちは「今まで通りでいいじゃないか」とも考えていたようでした。行政法ですから、指定をして、中止命令を出す法律です。現場にとっては事務ばかりが増えてしまうと危惧していたところもあった。

彼らはこう言っていた。

「今まで通り悪いことしたらその場で捕まえればいいじゃないか。中止命令とか、わけのわからんことなんかやらんでいい」

現場の刑事はある意味では保守的ですから、新しいことよりも、これまでのやり方でいきたい、と。実は警察庁のなかからも反対意見が聞こえてきていました。

夜道でサイレンを鳴らしたパトカー
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だが、暴力団が公然と大きな看板を出して、僕らの名刺よりも倍も大きい名刺を持って市民を威嚇しているというのはおかしい。アメリカのマフィアでも事務所を誇示したり、大きな名刺なんか持たないわけです。どう考えてもおかしい、何とかしなければいかん。やっぱり暴力団対策法ってものを作らんといかんじゃないかと思ったのですが、現場の経験が少ないので、どうも、今ひとつ自信がなかった。

「やくざの額にぺたっと切手を貼るんですよ」

また、反対意見はもうひとつあったのです。暴力団事務所から看板を外してしまうと、マフィアみたいに地下に潜って摘発しにくくなるというものだった。

そこで、ベテラン刑事の福岡の古賀君に電話して相談したところ、「ぜひ作るべきだ」と。

「局長、気にすることありません、ぜひ、やってください。そんなもの、やくざなんて放っておいたって潜りますよ。今はそういう時代なんです。暴力団対策法をやってください。看板かけるようなみっともない真似はやめさせて、暴力団の外見的な勢力を小さくしていく努力をしなければなりません。そうでないと、やくざはいつまでたっても大手を振って歩きますから」

彼は、こうも言っていた。

「局長、やくざの額にぺたっと切手を貼るんですよ。こいつがやくざだとはっきりさせることが非常に大切なんです。暴力団対策法ができたから潜るとかね、それがなかったから潜らないなんてことはありません。早くしないとダメです。特に知能暴力が増えていくから、早めに額に印を貼らないとダメです」

彼はよくわかっていたんだ。僕は優秀な刑事の感覚だなと思ったから、暴力団対策法を作ることに自信を持つことができた。