一つの問題は「異常な挙動その他周囲の事情」という「疑うに足りる相当な理由(=不審事由)」が、警察官の主観的な判断に委ねられているという点だ。実際に、白川氏の実例では、警察官の「カン」は大ハズレだった。
もう一つは「任意」の意味だ。質問を継続するために進路をふさいだり、所持品を見せるように迫ったりする行為が違法かどうか。それは「比例原則」(警職法一条二項)で判断される。1971年の米子銀行強盗事件では、職務質問に黙秘する男に対し、承諾を得ずにバッグのチャックを開け、大量の紙幣がみつかり犯行が露見した。最高裁は「職務質問に附随して行う所持品検査において許容される限度内の行為である」(昭53年6月20日第三小法廷・判決)と判断を下している。だがこれは「深夜に検問の現場」を通りかかり、手配書と人相が似るなど「犯人として濃厚な容疑が存在」していたからだ。
警察官は「任意」の建前から、「中身を見せてください」と言って、自らの意思で所持品を見せるように誘う。これに抗うのは至難だ。筆者も、2年前に新宿駅西口付近で2人組の警察官から職務質問を受けた。憤然としたが、その高圧的な態度に気圧され、鞄の中身を見せざるをえなかった。
職務質問が犯罪の認知や検挙に一定の効果があることは事実だ。警察庁の統計によると、10年の刑法犯48万6016件(交通事故は除く)のうち23%の11万6348件は職務質問が被疑者特定の端緒だった。殺人や強盗などの凶悪犯でも5270件のうち15%の830件は職務質問が端緒だ。
この事実を踏まえつつ白川氏は言う。
「身に覚えのない職務質問を受けた人は『二度と警察に協力するか』と思うはずだ。国民の信頼を失えば、捜査情報も集まらず、治安は守れない。そもそも本当のワルは職務質問には引っかからない。巨悪を取り締まるために何をすべきか。考えてほしい」