一つは、製品のタイプ。欧米は分厚くて、頑丈なタオルが中心だ。伊澤社長は現地の一般家庭へリサーチに訪れた際、タオルを乾燥機でこれでもかというくらい乾かしている様子を何度も目にした。「欧米の人たちはちょっとでも湿っているのを嫌う性質なのかもしれません。だから熱に強いタオルが求められています」と伊澤社長は説明する。

一方の日本は、薄くて軽いタオルが好まれる傾向にある。昔は綿布がタオル代わりで、天日干しですぐに乾くものを使っていたという風習があるからだという。

伊澤タオルが開発・販売するタオル商品写真
筆者撮影
伊澤タオルが開発・販売するタオル商品

「いいとこどりしたタオルを作ればいい」

もう一つの違いがあった。それは価格だ。米国は普段使いできるバスタオルが500円程度でスーパーマーケット「ウォルマート」などに売られている。一方、日本は1500円ほど。少し良いタオルになると2000~3000円くらいする。

これについて、伊澤社長がGSM(1平方メートルあたりのタオルの重量を表す単位)でさまざまなパターンを想定しながら計算すると、ある事実に気づいた。コスト効率がまるで違うのだ。タオルは基本的に重量が増えると値段が上がるが、ある分岐点で曲線が水平になる部分がある。欧米ではこのゾーンで商品を設計していた。かたや日本は軽量がデフォルトなので、どうしてもコスト効率は悪くなる。

「欧米は最初から生産効率の高い仕様設計ができていました。彼らは小売店ごとに色や縁取りなどで個性を出しているものの、スペックは同じものを作るのです。マス向け商品ではないが、標準規格はあるのです」と伊澤社長は話す。

他方、日本のタオルの良さは、肌触りだったり、手の込んだものだったりする。そこにできるだけ生産効率の良い方法、つまり欧米と日本のいいとこどりしたタオルを作れば、それがグローバルスタンダードになり、マス向け商品になるのではないかと伊澤社長は考えた。調査によって導き出された理論を武器に、伊澤タオルの挑戦が始まった。

“ど真ん中”のマス市場を狙った結果……

独自の理論を打ち立て、いかに生産効率を高めるかに注力した伊澤タオルは、研究開発への投資を惜しまなかった。その結果、ある程度、効率化できる道筋が立った。

その成果を広く証明するべく、セブン‐イレブンとの共同開発商品である「極ふわ」をはじめ、コンビニ各社や小売・流通企業などと組み、数多くのタオル商品を市場に投入していった。これらは年間で数百万枚規模の売れ行きとなった。

なぜ消費者の心に突き刺さったのか。「売れたい、目立ちたいではなく、ど真ん中のマス市場を狙うという純粋な動機で商品開発に臨んだのが良かったです。市場分析やスペックの精査も徹底的に行いました」と伊澤社長は振り返る。