各社との商品開発で手応えをつかんだ伊澤タオルは順調に業績を伸ばしていく。そうした中で、2018年の夏前に、1本のメールが突然届く。送り主はアマゾンジャパンからだった。
「(アマゾンで販売する)タオルの提案があれば、商品情報と商品を送ってください」と書かれていた。伊澤タオルの担当者はすぐに文面と資料、それに商品も一式送ったところ、しばらく経って、アマゾンからゴーサインが出た。すぐさまアマゾンの専用商品として、「タオル研究所」というブランド名を登録し、販売をスタートすることとなった。
ただし、アマゾンに登録されているのはタオルだけで20万品番もある。当初は5000位前後をウロウロしていた。転機はアマゾンの「スポンサープロダクト」への広告出稿だ。効果は絶大で、一気に50位以内に。しばらくするとトップ10入りを果たした。
トップ10入りで始まったレビュー荒らし、空注文も
ここからが大変だった。トップ10に入った途端、上位商品へのねたみなのか、突然レビューの評価に大量の「1」を付けられたり、「こんな商品は買うな」「ゴミだ」といった誹謗中傷のコメントを書き込まれたりした。これによって当然ランクは下がる。
多くの一般ユーザーからの評価で地道にランクが上がっていき、再び10位以内に入ると、また評価やコメントを荒らされる。この繰り返しだった。
「アマゾンの人に相談もできないし、どうしようと悩んでいました。そんなさなか、大事件が起きたのです」と伊澤社長は吐露する。
2019年暮れのある日。コンビニでの代金引換で2000枚、あるいは6000枚という規模の注文が次々に入った。金額にして約1000万円。例えるならば、コンビニの倉庫が伊澤タオルの商品だけで埋め尽くされる店が20店舗ほどできる数量だったという。「すごいよ! こんなに売れるなんて!」と、社員は皆大喜びして、テンションは最高潮に達した。
数日後、発注が一気に止まり、アマゾンのバイヤーから電話がかかってきた。「すぐに御社へうかがいたい」と。伊澤社長が対応すると、バイヤーはこう切り出した。
「ごめんなさい。すごい発注が入ったと思いますが、今、オーダーに残っているものを一部キャンセルさせてください」
実は、コンビニの代引きで商品を注文し、その後、受け取らずに返品して、販売元の会社をつぶしにかかるという悪質業者の手口だったのだ。小さな会社であれば、仕入れ分を回収できないから、倒産するしかない。こうした悪事が横行していたのである。
これに対して、アマゾンも以前から目を光らせていて、常時パトロールはしていた。今回も調査を進めているという。ただ、アマゾンの担当者は「今まで50万、100万円の被害はあったが、1000万円は初めてだ」という。
試供品を自宅に送る「プッシュ型戦略」で売り上げ激増
オーダーのキャンセルは承諾せざるを得ないものの、この1000万円のマイナスをどう取り戻せばいいか。不幸中の幸いだったのは、アマゾンのデータ分析では、伊澤タオルの商品力は高く評価されており、アマゾンの担当者も売る気満々だったことだ。