脱炭素がサプライヤーの新たな競争軸に

年間2億台を超える出荷台数を誇るiPhoneに自社の部品を組み込んでもらうことは、電子部品や半導体、電池、パネル、筐体などを供給するサプライヤーにとって生命線である。以前からアップルはこうしたサプライヤー同士を競わせ、低コストで部品を購入することで知られているが、ここに新たに脱炭素という競争軸が入り込んできたということになる。

「アップルとの交渉はずっと購買責任者との価格や納期の交渉がメインでしたが、2018年ごろから、毛色の違う人が同席し始めたと思ったら、グリーン担当の人でした。再エネでの生産も強制力はなかったのが、徐々に要件が厳しくなり、2020年には契約書を交わすまでになりました。今はサプライヤーとしてアップルにPRしてもらえるのも、グリーンに取り組む企業がメインになってきています」と、あるアップルサプライヤー企業の幹部は話す。

さらに踏み込んだのは、マイクロソフトだ。かつてはアップルのライバルだったマイクロソフトは、2014年に就任したサティア・ナデラCEOの下で抜本的な改革に成功したが、気候分野へのコミットメントも野心的だ。

マイクロソフト
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マイクロソフトは「月面着陸」並みの目標に挑戦

2020年1月にマイクロソフトが宣言したのは「2030年のカーボンネガティブ」だ。まだまだ聞き慣れない言葉だが、カーボンニュートラルが排出と除去で差し引きゼロ(ネットゼロ)を意味するのに対して、CO2除去の量が排出を上回るようにするということだ。このカーボンネガティブ実現のために、新たに設立したファンドを通じて、CO2除去技術の開発に10億ドル(約1100億円)を4年間にわたって投資するとまで宣言している。

ついでにいえば、2050年の目標については、「1975年の創立以来、直接的に、および電力消費により間接的に排出してきたすべてのCO2を2050年までに除去するという目標達成の道筋を確立する」として、75年分のCO2の相殺を宣言している。マイクロソフトはソフトウェア事業がメインのため、アップルと比べてもCO2の排出量はさらに限られているが、それでも時価総額200兆円近い巨大企業がもたらすインパクトは大きい。