やむを得ず、男子野球部に入る生徒も

さらに女子野球部にも入れない選手がいる。家の近くはもちろん、県内に女子野球部のある高校がひとつもない所もあるからだ。そんな女子はやむを得ず、男子野球部に入ることになる。

青森県の三本木高校に通う附田杏奈は小学2年から始め、高校では兄と同じ野球部に入った。監督から「練習は男子と一緒。きついぞ。覚悟はあるか」と聞かれ、それでも野球がやりたかった。すごい気迫で打球に飛び込みヘッドスライディング。それでも男子に体力負けして悔し涙を流したことは何度もある。しかし、「力では劣っても技で追いつこう」とバットを寝かせた構えで男子の速球に対応、長打まで放つ。今では副将だ。

大分の別府鶴見丘高校の男子野球部に入ったのは竹雅莉奈と広岡桃花。最初はマネジャーでもと思ったが、兄の影響で小学生から始めた野球の腕が鳴る。初めての硬球に恐怖心も芽生えたがすぐに克服。苦しく厳しい筋力トレーニング、あざだらけになるノックなど、ガッツで乗り越えた。逆に男子のほうが煽られて練習の本気度がアップする。「女子だからといって手など抜けない。野球に本気な女子にはこちらも本気で当たらないと」と監督は語っている。

女子野球に情熱を燃やす女子高生たちは、子供の頃に野球を始め、男子と競って活躍してきた経歴がある。野球が好きになり、野球しか頭にない。男子投手からバットの芯でボールをとらえてかっ飛ばしたときの快感が忘れられない。全力で投げたストレートで男子を三振に打ち取った快感が忘れられないのだ。そんな野球女子にソフトボールに転向しろと言っても無理な話である。彼女たちにとっては野球とソフトボールは、ラグビーとアメリカンフットボールの違いくらいあるのだから。

京都・宇治川の土手で野球の練習に励む女子学生
写真=iStock.com/Satoshi-K
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連合チームで全国大会を目指す

岩手県一関工業高校に通う石川愛癒は岩手県で初めての女子野球選手。小学2年生から野球を始め、中学時代は岩手県女子選抜選手にもなる。県内に女子野球部がないため、やむなく地元の工業高校の野球部に入った。

男子と同じきつい練習メニューをこなして頑張るものの、一緒には公式試合に出られない。そこで彼女は今年、全国高校連合丹波のメンバーとなって甲子園を目指すことにした。大会前、旅立つ石川に高校の男子たちが彼女にエールを送った。

連合丹波は石川のような男子野球部の中にいる女子に、夏の全国高校女子硬式野球選手権大会に出場できるようにする特別チームだ。今年は全国から連合丹波に14人が集結、3日間の合宿を経て本選に臨んだ。石川は連合丹波の主将に選ばれた。全員とてもうまかったが、同じ仲間と長年練習してきたチームにはかなわない。6回コールドで力尽き、緒戦で敗退した。

「甲子園に行けるという夢が見られただけでも感謝しています。14人で一緒にプレーできて最高の思い出になりました」