その日の演目は、演劇ではなく歌謡ショーだった。次々と劇団員が出てきて、歌に合わせて踊る。衣裳やパターンがどんどん変化するので、全く飽きさせない。「お送りしました」「お送りいたします」というアナウンスがよく聞き取れないのが、かえって独特の味わいを出していた。

すべての演目が終わると、お客さんが席を立つ前に、役者さんたちがさーっと前の道に出た。そして、一人ひとりに挨拶している。

観客と演者の距離が近く、一体感がある。(PANA=写真)

観客と演者の距離が近く、一体感がある。(PANA=写真)

「どうもありがとうございました」
 「あら、来てくださったんですね!」
 「またいらしてくださいね」

そんな様子を見ていて、私は、1つの確信を得たような思いだった。

日本人が世界で活躍できないとか、女性の社会進出には限界があるとか、世の中にはさまざまな「ガラスの天井」がある。

社会制度の矛盾もあるだろうし、さまざまな市場の圧力もあるかもしれない。だけど、本当の障害は、私たち自身の中にあるのではないか。

「大衆演劇」には、「歌舞伎」に負けない工夫と技術革新と顧客対応がある。同じように、世界のインターネットの動きに翻弄されてすっかり「ガラパゴス」感の強まっている日本の経済にも、まだまだ強みがあるのではないか。そのことに、私たち自身が気付いていない。

自分で限界を決めてはいけない。ガラスの天井は、自分で破れ。通天閣の下で見た大衆演劇の一座のみなさんの目は、誇りと光に満ちていた。

(写真=PANA)