17歳で母親と仕事を同時に失った
しかし、新しい生活が始まったわずか1年後、母親と恋人が再び逮捕されてしまう。17歳だった拓海さんは母親も仕事も同時に失うことになった。暮らしていた施設からは離れてしまって頼ることができない。生活のためにすぐにでも働かなければならないが、つてもない中卒の拓海さんを雇ってくれるところはそう簡単には見つからなかった。家賃すら払うことができないと途方に暮れていたときに、地元の先輩が手を差し伸べてくれた。「お金になる“仕事”がある」。紹介されたのは、詐欺の「受け子」として働くという“仕事”だった。
「とにかく生活のためにお金が必要だったので、抵抗はなかったですね。とりあえずスーツを着て“仕事”に行って、たまたまその日に成功して185万、一気にもらって。でもそれを一気に使ってしまって、なくなったらまたやって、という感じでした」
唯一手を差し伸べてくれたのが「地元の先輩」だった
拓海さんにとって、困っているときに唯一手を差し伸べてくれたのが、地元の先輩だった。払えなかった家賃を代わりに払ってくれて、電気・ガス・水道がとまってしまったときは先輩の家でカレーを食べさせてくれた。たびたび銭湯にも連れて行ってくれた。その存在は親以上で、信頼できる存在であり、詐欺に加担することは、拓海さんにとっては日々の生活のため、当たり前のことでしかなかった。しかし、徐々に金銭感覚が狂っていった。
お金やキャッシュカードを受け取る「受け子」の次は、だまし取ったキャッシュカードを使ってATMでお金を引き出す「出し子」を半年ほど務めた。出し子の“給料”は毎月60万円。そこでの実績が認められて、次は、「受け子」や「出し子」を集める「リクルーター」に昇進。このころには、詐欺だけでなく、銀行口座の売買の“仕事”も始めた。1枚2万円で仕入れて、10万円から12万円で販売。差額が利益となり、毎月30枚ほど取引をして数百万円の"売り上げ"があったという。当初は生活のために始めた“仕事”だったが、そのお金で豪遊するという楽しさを覚えると、抜け出せなくなっていった。