「会社にメリットがあるから」取り組む違和感
ジェンダーギャップの解消というと、どうしても男女の対立構造になりがちだが、そうしないためにも人事制度、評価全体の見直しが必要だと品川は指摘する。
「上り詰めるだけのはしご型キャリアでは、一旦降りたら『負け』、女性が登用されたら『オレの席が奪われる』と捉えがちなので、キャリア観そのものを変える必要があります。ジャングルジムのようにいろんな方向から登れて、時には降りてもいい。そういうキャリアを歩める組織の方が、例えば育休を取得しても席を奪われる心配がないから男性も積極的に育休を取るようになるし、女性もマネージャーに挑戦しやすくなる。
ジェンダーギャップの解消は最終的には働き方やキャリア観を変えることになり、人間性への回帰に繋がると思っています」
品川たちと話していて印象的だったのは、「D&Iをハッピートークで終わらせない」という言葉だ。企業内、特に経営層にD&Iの必要性を説得する際に、どうしても企業の競争力を上げるために多様な人材が必要であることや、投資家サイドもD&Iを重視しているという企業にとってメリットがある「ハッピートーク」の文脈で語ってしまいがちだ。品川たちもトレーニングでは最初、「財務指標への良い影響」「機関投資家も注目している」と経済的なロジックで伝えようとしていた。
しかし、ある時トレーニングの中で、1人の男性メンバーが「財務指標にいい影響があるから進めるというのは、メリットがなくなればやらないのか。それは人として違和感がある」と指摘した。
あなたの会社になぜD&Iが必要か説明できるか
「本来D&Iは構造的な差別をなくすということ。でもそれを言うと反感を持たれるかなと思って経済的なロジックで話をしていたのですが、その指摘を受けて、『あ、この会社では本質をわかってくれる人がいる。差別をなくそうと言っていいんだ』と。以来、本質を率直に話すようになり、その結果トレーニングでも部署の課題はこれ、とすぐに議論に入れるようになりました」(品川)
多くの企業が目指すSDGs経営。その17の目標にもジェンダーの平等は入っている。経営的、財務的にD&Iを進めることは良い影響が出ることもデータや研究などで証明されている。それでもなお、企業が本気で取り組めないとしたらなぜなのか。品川はこう話す。
「メルカリは『新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る』という企業ミッションを達成するために、信頼と透明性の高いコミュニケーションを大事にしています。それを実行するには偏見や差別があると難しい。なぜD&Iなのかを説明するときに、私たちのミッションを体現するためにと矛盾なく説明できるんです。D&Iに本気で取り組むためには、企業のミッションやカルチャーと結びついていることが求められると思います」