社内のグローバル化に制度が追い付かない
寶納はアメリカの大学院でも学んだ異文化コミュニケーションの専門家だ。メルカリ入社前は、トレーナーとして大学や非営利団体で教えており、メルカリにも人事部門の日本語が話せない社員のための通訳や翻訳を担当するグローバルオペレーションの担当として入社した。多数の社員を海外採用しているメルカリなら、コミュニケーション上の課題など豊富なデータの蓄積を生かした研修や制度が設計できると思ったからだ。
だが実際は問題が山積していたにもかかわらず、寶納が入社した2018年には、会社としてD&Iを真剣に受け止め、推進するようなオフィシャルな活動はなかった。外国人社員や女性社員の中でD&Iに関心が高い有志が、“部活”のようにスラック上での情報交換や自発的な勉強会などをしていた。
「会社が急速にグローバルになっていくことはみな肌で感じていて、人事でも何かうまくいっていないという問題意識を持っている人はいました。明らかに制度が成長スピードに追いついておらず、会社としてD&Iを進める必要性をマネージャーにも訴えました」(寶納)
男女の昇進格差は「実力主義」が理由なのか
社内プロジェクトとなったD&Iについて、まず社内で大規模な調査をすることになった。すでに表出していた外国人社員の問題だけでなく、女性や障がいを持った社員に関しても調査に盛り込んだ。調査の設計には人事だけでなくエンジニアなど各部署から10人ほどが参加、設問の項目や表現にも気を配った。
品川が入社したのはちょうどその頃だ。入社当初に配属された人事から法務に異動した後も、プロジェクトと“部活”両方に関わり続けた。大学時代にジェンダー論を学んでいた品川が中心となったのが、ジェンダーギャップの解消だ。だが経営陣に男女で昇進などに格差があることを訴えても、最初はなかなか理解してもらえなかったという。
「最初はどうしても気持ちに訴える形になってしまって。すると、『実際差別なんてあるの?』『自分はしてない』『そもそもうちの会社は実力主義でしょ』と言われてしまったのです」(品川)
企業内でジェンダーギャップ解消に向けて女性を登用しようとすると、決まって「能力もない人を管理職に登用するのは逆差別だ」という反発の声が上がる。これはどの組織にも共通することだ。だが、本当にそうなのだろうか。今先進的な企業では、「そもそも女性が能力を発揮できる環境なのか」「公平に競争できる土壌はあるのか」という問題意識から格差を生む構造の是正に取り組んでいる。
メルカリでも特に経営陣の中には、実力主義の徹底が中立公平なのだと信じている人は少なくなかった。