弱い立場の人ほど「しょうがない」と思わされている

「死んでしまう」と思わずにはいられない環境から、何とかして抜け出したい――。自分にできることを懸命に探したとき、頭に浮かんできたのは「勉強すること」しかなかった。フリーターのときに経験したたくさんの悔しさをぶつけるように、毎日机に向かった。22歳で高卒認定試験を受け、静岡大学の夜間コースで学びながら行政書士の資格も取得。その後は名古屋大学法科大学院に進み、卒業してまもない30歳で司法試験にも合格した。

「勉強は、改めて取り組んでみたら全く苦ではなかった」と五十嵐さん。「どん底」を経験したからこそ、自身の努力と能力でたくましくのし上がっていった実績を誇りに思っても不思議ではない。だが彼女は「そういう感覚はない」と言い切る。謙遜でも卑下でもない。「勉強が苦ではないという私の素質を、たまたまこの社会で一定の仕事を得るために必要な条件と合わせただけ」と説明する。

「生まれ持った素質や環境がもとで、知識を身に付けることができず、社会の不公正に対して怒りを抱くことさえできない人たちがたくさんいます。私はたまたま『勉強をするという場において、頑張れば報われた』だけ。苦しい状況にあっても『頑張ることが可能な環境』が与えられた。私はそこで得た力を、自分が勝ち抜くためだけに使おうとは思えません。『努力をすれば成功できる』というのは、成功している人の地位を正当化するための言葉です。そして、弱い立場にある人ほど『しょうがない』と諦めさせられている。この社会の仕組みを変えたい。それが私の負うべき責任だと考えています」(五十嵐さん)

自分がこの世界で最大限発揮できる能力が「勉強だった」という
撮影=今村拓馬
自分がこの社会で最大限発揮できる能力が「勉強しかなかった」という

「怒り」を自分自身や同じ境遇の人に向けないでほしい

社会の仕組みやその背景にある価値観に対して働きかけられる仕事を考えたとき、政治の道に関心を抱いた。参院議員の政策秘書と、弁護士の実務の両方を経験したが、志は変わらなかった。今回、政策秘書時代の仲間から声をかけられ、立候補を決断した。

2021年7月4日に投開票された都議選では、武蔵野市選挙区(定数1)で、都民ファーストの会現職(当時)と、元市長の娘の自民党公認候補らを破って当選。若い世代の政治に対する期待の低さは課題視しつつも「こんなにたくさんの人が支持してくれたのは、どこかで『今の社会は間違っている』という実感を共有できているからだと思います」と語る。

「その怒りを、自分自身や自分と同じ苦しい境遇にある人たちに、どうか向けないでほしい。今行われている政策、その背景、自己責任を正当化する社会に対して、疑問を持ってみてほしい。私一人ですぐに状況を変えられるわけではないことも分かっています。議員として課題を解決する方法を模索しながら、もっともっと、皆さんの声を聞きたい。困ったときにはお互いに支え合える、他者を認める社会をつくっていきたいです」(五十嵐さん)

(取材・文=加藤藍子)
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