アルバイト先で解雇を経験、労働基準法の存在を知る
いじめられたのは運が悪かった。ただ、中学に行かない選択をしたのも、高校へ進学しない選択をしたのも、すべては自分の責任だ――。当時はそう考えていたという五十嵐さん。しかし、2年ほどアルバイト勤務していたレストランで初めて、自分を取り巻く社会に対して違和感を抱く経験をする。
17~18歳頃の年末のこと。勤務していた店舗の店長から突然、クビを言い渡された。理由は明確に説明されなかったが、年末年始のシフトにどれくらい入れるかをめぐって、先方の都合に沿えなかったことが原因のようだった。
「いきなり不機嫌になって『もう明日から来なくていいよ』って。最初は『アルバイトなんかこんなもんか』『私は高校にも行ってないわけだし……』なんて、自分が悪い理由ばかり探そうとしていました。だけど、次の仕事を見つけるのも容易ではない。やはり、どうしても納得できないと思って、インターネットで必死に調べました。そしたら、労働基準法という法律があることを知って、すぐに労働基準監督署に駆け込みました」(五十嵐さん)
企業などの使用者が労働者を解雇するに当たっては、少なくとも30日前に解雇予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならない。労基法ではそう定められている。労基署の担当者が勤務先に指摘すると、五十嵐氏は数万円の解雇予告手当を受け取ることができた。
「社会が優しい、温かいと感じたことは一度もなかった」
「ホッとした一方で、権威のある人が言わないと支払われないのだなと複雑な気持ちにもなりました。知識がないと、こんなにも簡単に搾取されてしまう。この社会で自分や自分の大切な人を守っていくために、知識こそが武器になるのだと痛感したのがこのときです」(五十嵐さん)
それでも、急に暮らし向きを変えられたわけではない。10代で実家を出て一人暮らしを始めてからは、家賃と生活費を稼ぐため、4トントラックでの配送業務などの職を転々とした。体力的に過酷だったことに加え、社会に受け入れられていないという感覚が強かった。
「社会が優しいとか温かいとか感じられたことは一度もありませんでした。『このままでは死んでしまう』という直感さえありました。貧しさはもちろん苦しかった。ただ今振り返れば、私や私と同じような立場で働いている人たちの尊厳が守られないのも苦しかった。『そう扱われてもしかたないような選択をしてきたせいだ』と思わされる社会そのものが、恐ろしいと感じていたと思います」(五十嵐さん)