男性がマチズモから脱することができない理由
——最後の12章では「人事権を握られる」というテーマで、就活から入社後のキャリアまで、ほとんどが男性の会社上層部にコントロールされていることへの疑問を発していますね。
【武田】自分も10年ほど会社で働いていたので、なにかと言えば人事、という感じに疑問を持ってきました。人事がとにかく大好きな人たちが繰り返す「誰それが昇格した」「あの人はダメっぽい」といった話に入っていくのがストレスでした。今はさすがに変わったと思いたいですが、接待ゴルフに行くだとか、夜の飲みに付き合うだとか、そうやって、とにかく「その場にいる」人たちが評価されてきた。それでは、育児や介護をしている人はその仕組みに対応できなくなります。知人に聞くと、コロナ禍でテレワークが奨励される会社であっても、「自分は会社に来ている」とアピールする人がいるらしく、とにかく「その場にいる」という会社への忠誠心で評価されようとする考えがまだ残っているようなのです。
——なぜ多くの男性は「マチズモ=男性優位主義」から脱することができないのでしょうか。
【武田】昨年、政府は「2020年までに指導的立場の女性を30%に」という政策目標を諦め、「2020年」から「30年までの可能な限り早期」と先延ばししました。定年までこのまま逃げ切りたいと思っているような「指導的立場」の男性、女性を積極的に登用すると「俺の会社員としてのプランが崩れる」と焦っている人は、それを聞いて安心したのでしょうか。そもそも管理職になる機会が偏っているのを是正しようとしているだけなのに。
セクハラも女性活躍も「男性が解決すべき問題」
——この本を読んでいると、そんな構造がよく理解できます。発売後、読者からの反応はいかがでしたか?
【武田】読んでくださった方から、「男性なのにこんなテーマで書いてくださって」という反応をいただくのですが、これらの問題は、そもそも男性が解消すべき問題であり、先ほども言いましたが、“女性問題”というより“男性問題”です。男性が気付いて改善すれば、なくなる問題ばかり。男性側が自分や周囲の行動を検証すれば、良い方向に変わるはず。この本は「女性の味方」ということではなく、男性が中心となって作ってきた社会構造を考察しているにすぎません。これは良くないので直そう、という話です。
——それぞれの問題と分析を読んでいると、自分も過去に体験したけれど、「あのときこうすればよかったんだ。こう反論すればよかった」と気付かされます。
【武田】「特に○章は読むのが辛かった」といった感想も多くあり、ひとつの具体的な事例を読みながら、それに似た体験を思い出すようです。「不動産を内見したとき、男性の担当者と2人きりだったのが緊張した」というようなことが、当人には、しこりというか、記憶に色濃く残っている。それについて「それくらいは別に大丈夫っしょ」と外から決めてはいけません。
——そのしこりについてなかなか周囲の男性が理解してくれないという状況もありますが、女性の環境改善は良い方に向かっているのでしょうか。
【武田】男性中心に動いている政治の世界を見ていると、とにかくこの手の問題を先送りにしますよね。選択的夫婦別姓、うんうん、そろそろ考えなきゃいけないけど、今はほら、まずはコロナ対策を……というように。勝手に、優先順位を下げられてしまう。そういう状況だと、自分の考えを伝える、告発するのに体力が必要となるので、言っても無駄なのかなと、問題意識を麻痺させてしまう。そうやって強引にそれぞれの暮らしを保っている人もいるけれど、抑え込んでいたものがダムのように決壊したら危ないですよね。この本1冊で、どこまで届くかは分かりませんが、読んだ人の中で、少しの変化が起こっていればいいなと。例えば、男性が読んで「あれってダメだったのか」と思うようなことが発生すれば、この本を書いた意味があったのかなと思います。