都心では大音量の音楽を鳴らしながら走る「広告トラック」を見かけることがある。ネット全盛の時代に、なぜアナログな手法が使われているのか。作家の藤原智美さんは「広告トラックの対象は歩行者だけではない。ドライバーは宣伝効果を最大化するため、交差点に入るタイミングすら緻密に計算している」という――。

※本稿は、藤原智美『スマホ断食』(潮新書)の一部を再編集したものです。

祭りにネットが欠かせなくなった

気がつけば、私たちの日常は祭りでいっぱいです。それらはすべてネットによって駆動されているともいえます。

複数の花火が打ちあがっている夜空
写真=iStock.com/wataru aoki
※写真はイメージです

コロナ禍でいったん消えてしまいましたが、AKBなどアイドルグループの握手会には数万人の若者が集まりました。その日のネット上には握手会にまつわる膨大な数の画像やメッセージがあふれます。首都圏を中心に開催される同人誌販売会であるコミケ(コミックマーケット)は、最大で3日間に50万人が集ったといわれています。これに合わせてコスプレ姿の若者の画像や映像などが、ネット上にあふれました。コミックという紙の表現でありながら、この祭りにもネットは欠かせないメディアです。

「食」の祭り化にもネットが貢献しています。B級グルメ大会のような食のイベントはもとより、新店の開店日や評判店への行列風景、店内に入ると今度は料理写真と、すべてがネット掲載の素材となります。人によっては「食べる」ために行くのではなく、SNSのための素材探しに店に足を運ぶ人もいるほどです。家庭での手料理もネットにアップされます。そういえば、ネットにアップするために見栄えのいい料理をつくるという女性がいました。これも日常食の祭り化といえるでしょう。

鉄道はもともとマニアが多いジャンルの1つでしたが、ネットが一般化してからはさらにファンが増えて、ことあるごとに駅のプラットホームに線路脇にと人々が押しよせます。新幹線開通の一番列車、あるいは廃止になるブルートレインのラストラン。こんな特別な列車ばかりでなく、休日ともなれば全国の撮影スポットに人だかりができる。そしてネットにその画像が大量にアップされる。SNSには鉄道マニアのサークルがたくさんあります。

世界遺産はどうでしょう。これもやはり祭り化の対象です。むしろ祭り化=観光化のために世界遺産は存在するといってもいいくらいで、世界遺産に認められると、たちまち大勢の観光客が訪れます。ネットでもテレビでも新しく認定された世界遺産が話題の中心になりますが、やがて落ち着きを取り戻す。なかにはすぐに寂れていく場所もあります。この一瞬の高揚、一時のにぎわいは祭りそのものです。

そのほかにも、市や町が音頭をとって行うギネスブック世界一を目指すイベントというのもよくあります。これにはゆるキャラが参加するのが常です。ゆるキャラの人気は地方自治体による祭り化の象徴といえるかもしれません。

夏になると全国各地で開催される花火大会も祭りの一つです。その数はゆうに1000カ所を超えるといい、大規模なものでは数十万人が見物に訪れます。彼らの多くが打ち上がった花火を撮影し、動画や画像としてネットにアップします。

年末に各地の街頭を飾るイルミネーションも、花火大会同様にネットに掲載されます。同じころ行われるベートーベン「第九」のコンサートも恒例の「祭り」です。こちらは最盛期で全国、100カ所近くで開催されました。本場のドイツではほとんど行われていないということを考えると、きわめて奇異な現象です。50万人の人出があるという浅草のサンバカーニバルといい、海外の「ネタ」が日本ではたちまち大人気の祭りとなってしまいます。さらに大晦日にはカウントダウンもあります。こちらも海外発ですが、すっかり恒例化しました。

学校教育でも祭り化が進行しています。体育祭、学園祭といったかねてから行われている行事に加えて、ダンスが授業に導入されました。私はこれを教育の「よさこい」化と呼んでいます。ダンスはネットと親和性が高い。見栄えのする動画になります。この教育のよさこい化を象徴するように、小学生、中学生、高校生が出場するダンスの全国大会がいくつも開催されています。

さらに最近目につくのは、○○甲子園と銘打った文科系の大会です。たとえば高校だけに限っても映画甲子園、短歌甲子園、俳句甲子園、書道パフォーマンス甲子園など目白押しとなっています。