「感情って対数なんだな」と考える
【加藤】ただ、相手である上司のほうが全人格的にぶつかってくる場合もあるじゃないですか。だからパワハラにもなったりして。それに対して、こっちも全人格でぶつかる必要はあるのかな。
【角田】この前ある取引先と揉めて、その時は結局全部撤収したんだ。その怒りのメールで「一〇〇〇%やりません」って書いて送ったわけ。で、あとで冷静になって考えた時に、「なんで僕、『一〇〇〇%』って書いて送ったんだろう」と思ってさ1986オメガトライブの『君は一〇〇〇%』もそうだけど、一〇〇でいいじゃん。「僕、なんで一〇〇〇って書いたの?」って。
【加藤】それはカルロス・トシキさんのおかげなんじゃないの?
【角田】それで、「これって、単純に一〇の三乗だな」って気付いたの。一回目の粗相をやられた時は一〇の怒りで、まあ小さいわけ。それで、二回目をやられた時には二倍の二〇じゃないんだよね。二乗になって、一〇〇になるわけ。相当ムカついてるけど、それでもまだ金もらえるから我慢するわけよ。
ところが、三回やられて一〇〇〇になると、「もう、一〇倍の金もらわないとやらんわ!!」って気持ちになるから、やめちゃったんだなあと思ったんだ。
音楽の音程も周波数の対数で構成されていて、二倍で一オクターブになるんだけど、調和のとれた音楽ってエンドルフィンの分泌を促すから、感情に影響するでしょう。音圧のdB(デシベル)もそうだけど、人間の体って対数に左右されるようにできているんですよ。
だから意外に、対数的な感覚で考えたほうが世の中の動きに合ってる。例えば平成は三〇年、平安時代は四〇〇年、縄文時代は一万六〇〇〇年だけど、それを「同じ時代」と括って考えたほうが歴史的には合ってる。なぜなら対数だから。そうやって「感情って対数なんだな」って考えるのはすごくいいと思うわけ、好きにせよ嫌いにせよ。
【加藤】燃えてすぐ冷めるわけね。
その時は分からなかった上司の行動
――最初に加藤さんが触れた、当時「×○●△□!」だったけど今は感謝している上司に対する心境の変化って何だったんですか?
【加藤】入社二年目くらいで毎日企画書を書かされてて。ずっと横にいるんですよ。でもタバコ吸ってるだけで何もしてない感じでさ。書いているこっちとしてはムカつくわけ。
それでもしばらく作業したら、企画書が“完成”しちゃう。できた、上司横にいる。そしたらプリントアウトして見せざるを得ないじゃないですか。それで見せたら、いろいろダメ出ししてくるでしょ。「ふっざけんな!!」と思いながらそれを繰り返して、ある程度けりが付いた深夜くらいから飲みに連れて行かれて、あれこれ云われながら飲む、みたいな毎日でしたね。二〇二一年のいまいまだとあり得ないシチュエーションだけど。
今思うとさ、その人は横で待っててくれたんだよね。本当は帰りたかったんだと思うんだけど、自分の時間を投資してくれていたわけ、若かりしかとうに対して。それは……やっぱりその時は分からなかったんだよね。
逆の立場になって、待つのも仕事だな、になってくるじゃないですか。待つのはつらいし嫌なんだけど、「俺がやったほうが早い!」とか云っちゃうとホントはダメで、上司とか先輩は待つのが仕事だと思わないといけない。それが二〇年経ってようやく分かったわけ。