撤退作戦そのものに重大な瑕疵があった
それにもかかわらず、バイデン大統領は撤退期限を延長しなかった。その結果、誤った判断にもとづいた撤退作戦の不備が表面化した。まず、タリバンの圧政から逃れようと国外への脱出を求める人が空港に殺到した。その中で8月26日にはカブール空港で自爆テロが発生し、米軍をはじめ多数の犠牲者が出たことは世界に衝撃を与えた。
8月30日の米軍撤退後もアフガニスタンから脱出できない人が多くいる。米軍への協力者の安全や、女性の人権への懸念も日増しに高まっている。想定よりも早くタリバンがアフガニスタンを掌握したこと、脱出を望むすべての人が脱出できなかったということは、米国の撤退作戦そのものに重大な瑕疵があったということだ。
世界各国は「米国の力が弱まっている」と懸念
米国内外からバイデン政権の撤退作戦への批判が強まっている。バイデン大統領は、撤退は正しかったと主張しているが、民主・共和両党に加え、米世論からも撤退作戦が混乱を深刻化させていると批判が相次いでいる。
米国外からも、バイデン政権への懸念が増えている。各国主要紙を確認すると、米軍のアフガニスタン撤退は米国の敗北と位置づけられ、政治、経済、安全保障の基軸国家としての役割を果たしてきた米国の力が弱まっているとの認識が増している。
今回の撤退作戦の実行は、もし自国の安全保障が脅かされた場合に米国は守ってくれるだろうか、という米国の同盟国をはじめ国際世論の不安を高めている。欧州連合(EU)のボレル外務・安全保障政策上級代表はEUの利益を守るために独自の部隊を創設する考えを示した。
また、シンガポールのリー・シェンロン首相はカマラ・ハリス米副大統領との記者会見にて「インド太平洋地域で米国が自国をどう位置づけるかによって、各国の米国に対する評価が決まる」と述べた。そうした発言からは、安全保障面での米国への信頼感は一段と低下したとの各国の認識が読み取れる。