“敵の敵は味方”で中ロがタリバンと組む可能性も

米国がアフガニスタンから撤退したことによって最も大きな影響が出るのが、世界情勢だ。まず懸念されるのが、テロのリスクだ。米国は対中政策に全集中する。その結果として、アフガニスタンおよび中東地域における米国の影響力は弱まり、イスラム勢力が台頭する展開が懸念される。

カブール街の眺め、アフガニスタン
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/christophe_cerisier)

アフガニスタンがイスラム国やアルカイダなど、テロの温床となる可能性も高まっている。アフガニスタンから逃れようとする難民に紛れ込んでテロリストが他国に入り、攻撃が行われれば世界の安全保障体制には大きなマイナスだ。

2つ目に、“敵の敵は味方”のロジックにもとづいて、タリバンが米国と対立する中国、ロシアとの関係を強める可能性も高まっている。それは、国際社会における中国とロシアの発言力が増す要因であり、世界の政治情勢にとっては大きな変化になりえる。すでに中国共産党政権はタリバンとの会談を実施し、テロを非難する一方で、アフガニスタンの復興に協力する姿勢を示し、欧米との違いを鮮明にしている。その背景の一つには、アフガニスタンから中国にイスラム過激派が入り込むことを防ぐ狙いがあるだろう。

支援してきた政府軍の実力も把握できていなかったのか

世界情勢への影響を考えた時、特に懸念されるのが、バイデン政権が実行したアフガニスタンからの撤退作戦だ。撤退作戦に関して、バイデン政権には誤算があった。

バイデン政権は、タリバンがこれほど早期にカブールを制圧し、アフガニスタンを掌握することを想定していなかった。米国の報道では、6月下旬の時点で米国の安全保障の関係者らは、8月末に米軍がアフガニスタンから撤退してから6カ月以内にカブールが陥落する可能性があると予想していた。

その後、8月11日までに米国では、政府内で90日以内にカブールが制圧されるとの予測があるとの報道がなされた。その時点で、米国は、タリバン勢力が首都を包囲したとしても、米国が装備を提供し訓練を施したアフガニスタン政府軍には数カ月は持ちこたえる力があると判断していたわけだ。

しかし、一連のバイデン政権の予測が間違っていたことが明らかになった。8月15日には、米国の想定よりもかなり早くカブールはタリバンに制圧された。同日、ガニ大統領が国外に脱出し、後にアラブ首長国連邦に滞在していることが判明している。米国はタリバンの攻勢力だけでなく、自ら支援してきたアフガニスタン政府の実力も正確に理解できていなかったということになる。