「今日のまんがを代議士が大変喜んでいる」

僕は小心者なので、「このまんがが新聞に載ったら、クレームが来るのでは」と夜も眠れないことが何度もあった。翌朝、まんがでからかわれた政治家の事務所から電話がかかってきたこともある。「万事休す」と観念して電話に出たところ「今日のまんがを代議士が大変喜んでいる。議員のHPに引用してもいいでしょうか」という問い合わせだった。「事務所にまんがを飾りたいので原画を購入したい」というのもあった。

「悪名は無名に勝る」ということなのだろうか。政治家は、自分のことが話題にならないことを極端に恐れる。悪口でも、スキャンダルでもいいから自分のことを扱ってほしい。非常に珍しい人たちなのだということ知った。

数ある政治家の中で、最も佐藤さんが取り上げた回数が多いのは鳩山由紀夫元首相だろう。あの独特のルックスから「宇宙人」とか「ルーピー」とか言われた。2009年、国民から圧倒的な支持を首相になったにもかかわらず、失敗続きで国民の期待に応えられなかった。佐藤さんとしては、ネタの宝庫だったのだろう。

2010年4月13日、鳩山絵欠き歌
画像=佐藤正明

けなされた本人も笑ってしまうような暖かさがある

5年ほど前、佐藤さんと語らって、歴代の政治家の中から「政治まんが大賞」を選んだ。佐藤さんは迷わず鳩山氏を選んだ。「最も政治まんがとして描きやすい」つまり、皮肉りやすい政治家ということで、鳩山さんにはかなり失礼な話だ。

心のこりがないように
画像=佐藤正明
佐藤正明『一笑両断』(東京新聞)
佐藤正明『一笑両断』(東京新聞)

僕たちはさらに悪のりして鳩山氏にコメントを求めようとした。さすがに断られるだろうと思っていると、鳩山さんは応じてくれて「佐藤さんのまんがを不快に思ったことはない。風刺をしながら、どこかに愛情を感じる。批判されているはずの人間が笑ってしまうようなところがある。風刺の対象にしてくれることはうれしいことだ」と真心のこもったコメントを返してくれた。

鳩山氏の友愛の神髄を見たようなきがしたが(もちろん冗談)、佐藤さんのまんがは、けなされた本人も笑ってしまうような暖かさがあるのは確かだ。

佐藤さんは「一笑両断」のあとがきを、こう結んでいる。「いつも寛容な政治家の皆さまにも深く感謝申し上げます」。

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