マイナスオーラの「普通のおじさん」

私は、政治部記者として20年余、佐藤さんとつきあってきた。毎週のように作品のやりとりで電話で話していた時期もある。

佐藤さんの印象をひと言でいうと「平凡なおじさん」だ。ジョークなどは聞いたことはない。そればかりか、前向きな話を聞いたことがない。仕事の依頼や提案をすると、決まって「もうやめましょうよ」「勘弁してください。年寄りをいじめないでくださいよ」という返事が来る。マイナスオーラ全開なのだ。

とても週に2回、クオリティの高いまんがを描くとはとても思えない。面白いことは、まんがに「全集中」するために、会話ではわざとつまらないことを言おうとしているのではないかと疑ってしまう。

佐藤さんの作品の特徴を紹介したい。とにかく「早い」。まんがを描くスピードが速いというだけでなく、起きたばかりのテーマをまんがに盛り込む早さは、誰もまねできない。

「モリ・カケ」を題材にしたのは、圧倒的に早かった

彼のルーティンは、こんな感じになる。締め切り日(火曜と土曜)の前夜、つまり月曜と金曜の夜、ベッドに入るところから作品づくりが始まる。布団の中で目を閉じて、構想を練る。新聞やテレビで仕入れた情報をもとに組み立てる。

夜のうちにいいアイデアが浮かぶこともあるし、全く浮かばないこともあるのだという。アイデアが浮かぶとうれしくて眠れなくなり、浮かばないと心配で眠れないのだそうだ。眠れないのは加齢が原因ではないかと、僕は疑っているのだけど。

前夜のアイデアをもとにして、翌朝に新聞、テレビ、SNSで仕入れた最新ニュースを取り入れ、午後に一気に書き上げる。前夜にいいアイデアが浮かんでいても、翌日に事態が動いてニュースが「腐って」しまうことも少なくない。いずれにしても、最新情報を盛り込んで夕刻に作品が送られてくる。だから鮮度の高い作品が新聞に載る。普通の政治まんがは、1週間ぐらい前の出来事を題材にすることが多いだけに、その違いは歴然としている。

森友と加計
画像=佐藤正明『一笑両断』(東京新聞)より

安倍晋三前首相を直撃した森友学園、加計学園の問題。蕎麦になぞらえ「モリ・カケ」という言葉がはやったのは、ご記憶だろう。僕の記憶では、佐藤さんが「モリ・カケ」を題材にまんがを書いたのは、他の政治まんが家よりも圧倒的に早かったと思う。佐藤さん本人は「そんなことはありませんよぉ」と謙遜するのだけど……。「モリ・カケ」を発表した数日後には続編を載せた。元文部科学事務次官で安倍政権に批判的立場に転じた前川喜平氏が、蕎麦屋の店主として登場するなど細かい芸も忘れていない。

前川氏の出現
画像=佐藤正明『一笑両断』(東京新聞)より