72歳でも現役バリバリという政治まんが家の世界
政治まんが家は、絶滅危惧種である。和服を着ているか、ベレー帽をかぶっていて、白い紙に墨でまんがを描くような「昭和」の印象が強い職業かもしれない。実際、「新進気鋭の政治まんが家」というような存在は、ついぞ聞かない。
そんな中、「政治まんが」の世界で輝きを放つ作家がいる。佐藤正明さんだ。東京新聞(中日新聞)で週2回の連載を持ち、コアなファンを引きつけている。彼の傑作選『一笑両断 まんがで斬る政治』(東京新聞)は7月下旬に発売されると版を重ね、売上好調だ。佐藤さんの「生態」をひもときながら政治まんがの世界を紹介しよう。
佐藤氏は1949年生まれの72歳。名古屋で生まれ。愛知県の大学を卒業し、デザインプロダクションの仕事を経て、中日新聞からの依頼を受けて政治まんがを描いている。
80年代から政治まんがを描いているのだから三十数年のキャリアを持つ大ベテランだが、いかんせん政治まんがの世界は後進が育っていないので、いまでもベテランではなく、脂ののりきった世代という評価されている。ずうっと愛知県で活動しているので、全国的な知名度はないが、昨年には日本漫画家協会賞の大賞(カーツーン部門)を受賞した。
政治を笑い飛ばすこと自体が、避けられる時代に
なぜ政治まんが家が育たないのか。背景には政治を論じることが「面倒くさく」なってきたことがある。1970年代、80年代ごろまではテレビの演芸番組では、政治をからかうような漫才が頻繁に放映されていた。かなり辛辣な皮肉も含まれていて、例えば「まるで●●党みたいで、右か左か分からない」などというギャグもあった。ロッキード、リクルートといった一連の疑惑も笑いの題材とされていたものだ。
ところが最近は、お笑いの「政治離れ」が急速に進む。テレビ局が、政治に忖度しているのか、芸人たちが忖度しているのかは分からないが(おそらくその両方だろう)、政治を茶化すネタはほとんどない。爆笑問題やウーマンラッシュアワーが政治ネタを扱うことがあるが、そのこと自体がSNSなどで話題になるほど、珍しいことになっている。
政治を笑い飛ばす政治まんがも、「お笑い」と似た状況なのかもしれない。やはり、「表現の不自由」がまん延し、業界全体が先細っている。
新聞でも、政治まんがの「地位」は、少しずつ隅に追いやられている印象だ。週2回、原則として1面で掲載している東京新聞は別格として、他の新聞内では、20~30年前と比べて目立たない位置に置かれることが多い。そういう面倒くさい環境の中で、黙々とまんがを描き続けるのが佐藤さんだ。