ユニクロに転職一年で降格
小齊平さんはファーストリテイリングへの転職を決めた。当時、「ユニクロ」はヒートテックの開発で注目されており、衣服の概念を変えていく企業姿勢に惹かれたのだ。
2013年に入社すると、監査部へ。最初に担当したのが、ユニクロ中国法人を香港市場に上場するプロジェクトの内部監査だった。中国国内のユニクロ150店舗を450店舗へと拡大する転換期にあり、社内は相次ぐ新店舗開業で多忙を極めていた。人材の入れ替わりが激しく、業務改善も急務となる。財務諸表やオペレーションの状況から改善点を見つけるため、膨大なデータ分析に追われた。
その激務のなか、プライベートでも試練に直面した。父親が膵臓がんで倒れ、半年はもたないと余命宣告されたのだ。自宅で介護することを決断し、小齊平さんは有給を前借りする形で休職。それから2カ月後、父の最期を看取った。
「あまりに大変な年でした。すぐ仕事に戻ったものの、数週間後に『降格』を申し渡されて。社内のポジションはグレード制で、頻繁に見直しがあります。入社初年度の私は上司の期待値に応えられず、2グレードの降格に……心が揺れ動きました」
転職も頭をよぎるが、そのタイミングで辞めるのは踏ん切りがつかない。今の仕事をやり切らなければ、前へ進めない気がした。それまで監査部の仕事に正直苦手意識があったという小齊平さん。わからないことがあれば、嫌がられてもかまわず監査法人に確認を繰り返し、苦手なIT監査にも率先して取り組んだ。
その成果が評価され、2年後には再昇格を果たす。AI技術の可能性にも着目した小齊平さんは、次なるチャレンジを目指した。
ソフトバンクへ転職
新しい価値を生み出したい――。その変わらない一心で選んだのがソフトバンクだ。RPAを事業化する新部署が立ち上がるという話を聞き、迷わず飛び込んだという。
RPA(Robotics Process Automation)とは、業務の処理手順を登録することで膨大な作業が自動化される手法。小齊平さんはRPA事業者への出資や社内での販売事業の立ち上げ、海外展開を担当する。翌年には念願だった新規事業開発を担う組織へ異動。ソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資先企業に対して、日本市場における進出支援に携わることになった。
「ソフトバンクは出資先企業にあまり口出しをしないんです。私はもともとコンサルで再建側にいたので、シビアに交渉を進めていくタイプ。だから感覚的なギャップがあって、そんなに緩くていいのか!? と上司とぶつかったくらい(笑)。でも、実際にはそれでうまくいったのです。私は出資契約後1、2年で結果を出さなければと思っていたけれど、ソフトバンクが目指すゴールは期間も定義も異なります。投資回収の時間軸が圧倒的に長いのです。相手の起業家精神を尊重し、彼らの事業計画を長い目で見守っていく。懐の深い会社なのだとしみじみ感じました」